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しおりを挟む「塩でなくて大丈夫?」
「あの、わ、私ね、その……甘いのが…好き、なの…」
これが初めての嘘のカミングアウトだ。
これを機に全てを晒してしまえれば楽だがそうもいかない。
ちょっと見栄っ張りで済むこれくらいで留めておかねば聡太からの信用を一瞬で失くしてしまう。
「そうなんだ、…あれ、前に甘いのは…」
「うん…あの、可愛こぶってるって思われたくなくて、その、苦いのでもいけるって思わせたくて」
「へぇ…え、それ何のために?」
「キャラクターってものがあるじゃない…」
クールで事務の鬼な『清水薫』を崩したくなくて、「意外と可愛いとこあるじゃん」なんて思われたくなくて。
でも嗜好はなかなか変えられなくて…薫はそんなことをしどろもどろになりつつ説明した。
「…へぇ」
聡太はその虚勢に何の意味があるのぼんやりとしか理解できず、しかしまぁ本人が目指す像があるのだろうと残った塩レモンの缶に手を付ける。
聡太もでかい図体に対してのベビーフェイスをいじられることが確かにあって、その手のギャップを指摘されるの煩しさは分かっていたので「そんなものか」とプルトップに指を掛けた。
プシュッと重なる開封音、飛沫が跳ねればフワッとレモンの香りが広がった。
「いただきます…」
「うん、どうぞ」
「………美味しい」
「良かった。新製品なんだよ」
「…聡太くん、レモン好きなの?」
炭酸の泡の刺激を舌に残しつつ、薫は聡太へ尋ねる。
「いや、たまたまだよ……その…いつかは、薫ちゃんもこっちの部屋に来ることがあるかななんて思って…買ってたんだ」
「へぇ?」
「ち、違うよ、別に変な意味じゃなくて」
「ふぅん」
「参ったな…でも仲良くなってきたし…招待することもあるかと準備してたんだ」
同僚から恋人をすっ飛ばした婚約者。
順番が逆だが聡太も承諾したからには薫と打ち解けて夫婦になろうと前向きなビジョンが見え始めていた。
仕事の真面目さはもちろんだが家事全般の手際の良さも「さすが」と讃えたいし料理の味も申し分ない。
それどころか薫はどうやら休日に望地家を訪ねては、聡太の母から『お袋の味』を伝授してもらっているらしい。
いつの間にか実家と寸分違わぬおかずのレパートリーが増えて新鮮だけど懐かしい味がして。
きっかけは偽装でも、いつしか本物になる日も近いのではなかろうかと希望を感じていた。
薫は突飛なところもあるが基本真面目で一生懸命だ。
本人はまだ明かさないが長年片想いを続けた一途さと根気強さも兼ね備えている。
そんな聡太への好意が透けるでもないがそこはかとなく滲んだような甘酸っぱい毎日を送るうちに、彼も薫へは同僚に向ける以上の気持ちを抱き出していた。
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