ライアー・ブライド…真面目な僕らの偽装結婚

茜琉ぴーたん

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「お邪魔します」

「引越し以来だよね、どうぞ、こっち」

「キレイにしてるんだ」

「散らかすほど何もしてないんだよ。食事は薫ちゃんの部屋だからゴミも出ないし…その、光熱費の分担とかも悪いなって思ってるんだ」

「良いよ。私ひとりでも同じだけ掛かるんだし」

食材費は割り勘なので負担ではない。

 労力をということであれば給金を貰っても良いくらいの働きだが元々が料理好きなのでそこまで手間とも感じていない。

 むしろ好きな男に料理と弁当を食わせて胃袋を掴むことは、ライフワークと言っても過言でないくらいに薫の生活を彩っている。

 そしてそこで得られる充足感と「美味しかったよ」と空の弁当箱を受け取った時の高揚感はもはやご褒美…とろけるほどに叫びたいくらいに嬉しい褒賞だ。


 薫はそそくさと上がり、殺風景だが随所に聡太の生活感のある部屋の床へ腰を下ろす。

 どんな酒が出てくるのだろう、持参した方が良かったかな…そわそわ待っていると聡太は冷蔵庫から出したチューハイの缶を薫の前の座卓へコトリと置いた。

「ありがとう…」

「チューハイ好きだって言ってたから。甘いのとサッパリしたの、どっちが良い?」

「えーと」

 置かれたのは蜂蜜レモン味と塩レモン味の2種類。

 薫に選ばせてから取るのだろう聡太は「どちらでもどうぞ」と手で示す。


 薫は以前聡太に「甘くないチューハイをたしなむ」と豪語したのだがそれは嘘だ。

 彼女はカクテルやチューハイに関しては甘ったるいジュース風味なものを好む趣味だった。

「(蜂蜜か塩かって、なんでそんな極端なの…クールな女ぶってるのに甘いの好きだって…馬鹿にされないかな…)」

「薫ちゃん?あ、完全無糖のも買ってるよ、モスコミュールとか甘さ控えめのも」

「あ、ありがと…えっと…」

「ビールとかの方が良かったかな、あ、うちで呑んでたみたいな梅酒にしようか、買って来るよ!」

あれやこれや揃えて訪室を楽しみにしていた気恥ずかしさ、聡太はコンビニへ走ろうかと財布を握る。

 しかしそんなことをわざわざさせてなるものかと薫は引き留めて、

「は、蜂蜜の方、に…する…」

と蚊の鳴くような声で冷えた缶を手元に寄せた。
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