20 / 73
3
20
しおりを挟む半同棲を開始してひと月。
意外や生活は上手く回っていた。
お互いに早番・遅番で出退勤リズムは異なるものの、全体的にゆったりとしたタイムスケジュールでバタつくことも少ない。
開店の10時に合わせれば朝食は9時からでも余裕で間に合うし、薫は正確な体内時計により6時には起床してしまうので身支度に慌てることも無かった。
前日が遅番だと若干寝坊してしまうこともあるが、それでも聡太との朝食は遅れたり流れたりすることは無い。
きちんと着替えて化粧を施してから聡太を迎え、「行ってらっしゃい」と送り出す幸せ。
薫は顔や口にこそ出せないが、溢れ出るそれを抑えきれず彼から顔を背けることが増えた。
聡太からすれば「何か怒ってるのかな」なんて勘繰ってしまうのだが、それを指摘するには彼はまだ勇気が足りなかった。
そして今日も。
「頂きます……わ、だし巻き卵、上手だね」
聡太が褒めたのに薫は
「そ、そう?普通よ」
なんて可愛くない答えしか返せない。
「美味しい…美味しいよ!」
「そう、これくらいなんてことないけど」
「(何が不服なんだろう…)」
「(素直に喜べば良かった…あー‼︎)」
より綺麗に焼けた方を聡太の皿に盛るいじらしさ、弁当と被らないようおかずを変える工夫。
彼だってそんなことはとうに気付いているのに返事が分かっているので言えやしない。
これで本当に良かったのかなんて考える夜もある。
しかしお見合い話から逃げる日々が終わって心穏やかに過ごせているしトータルで見ればプラスなのだ。
会話の弾まない薫との生活も堅苦しいと言えばそれまでだが、ここから仲良くなるんだから耐えられないこともない。
そもそも偽装結婚を提案したのは薫からだしいずれ歩み寄る気はあるのだろう。
「(誰しも、こんな時期があるもんだよ)」
聡太は楽観的に捉えていた。
しかし薫の両親の容態などを鑑るとぼちぼち挨拶に行った方が良いのでは。
和朝食を有り難く平らげた聡太はお茶を飲み干してトンと置く。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる