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しおりを挟む「はい、粗茶ですが」
「恐れ入ります。すみません、お休み中のところを」
「良いのよぅ、まだ起きてる時間だから」
パジャマ姿の聡太母は手早く湯を沸かし、ティーバッグで淹れた緑茶を薫の前に出してダイニングテーブルの対面に座る。
父は肌着でテレビを観ていたのだろう、爪切りとティッシュと季節外れの腹巻きが座卓の端に残されていた。
「そうなんですか、では早速ですが本題に…聡太さん、」
「ハイ?」
隣でぽかんとなっている聡太の脇腹を薫は肘でぐいぐい押す。
ニッコリ笑っているその表情からは「ほら言ってよ」と無言の圧を感じさせる。
「聡太?なに?あ、まさか結婚の報告?そうなの?えっと、清水さん?」
「はい…実は、先ほどプロポーズをお受けしまして、ご迷惑だと遠慮したんですが聡太さんが『すぐに両親に紹介したい』と強引に…うふふ」
強引も何も運転したのは君じゃないか。
聡太はあんぐり開けた口を閉じられず、出された普段使いのマグカップで口元を隠し「どういうつもりだよ」と薫へコソコソ話し掛けた。
しかし彼女はクールに笑顔を返し、両親へ向き直って
「不束者ですがよろしくお願い致します。聡太さんとはアパートで当面暮らすつもりなんですが、ご要望がありましたらこちらでお父さまお母さまと同居させて頂くことも念頭に置いております」
と頭を下げる。
「まぁ、良いわよ、若い二人で暮らしなさいな。今後のことはまた何かあれば考えましょ」
「そうですか…ではですね、ご近所の方には申し訳ないんですが、聡太さんに舞い込んで来ているお見合い話、あれを止めて頂きたくて」
「あー、そうね、会長さんに言っとくわ。いやね、世間話のつもりで話したらこんなことになっちゃって。もー、聡太もこんな良い人がいるなら早く言ってくれれば良いのに」
「そうですよね、お手間をお掛けして申し訳ないです」
「……」
自分を置き去りにしてどんどんと話が進んで行く。
聡太は温かいマグカップをくるくる手の中で回して「これこそ夢なのでは」と目を閉じ瞑想に入った。
「(…今日1日、まるっきり夢なのかな…)」
両親はやんややんやと薫と盛り上がって酒まで注ぎ出した模様。
良い気になった父は「呑んで呑んで」とお気に入りの梅酒を4リットルの瓶ごと食卓へ上げてお酌を始める。
「あ、美味しいです」
「薫さん、イケるクチ?」
「嗜む程度です」
「何かおつまみ出そうかしら」
「うふふ」
「あはは」
「(夢かな)」
聞いたことのない薫の楽しそうな声、つくづく本日は薫の新しい顔を見た1日だった。
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