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しおりを挟む10分ほど走ってボウリング場や映画館が入った遊戯施設の駐車場へ、時刻は23時を回り駅からの無料シャトルバスももう動いていないようだった。
「……あ、着いた…?ふー……んで、話とは」
火照った顔をぺちぺち叩いて夢から正気に戻る。
ふわふわした聡太に薫は
「望地コーナー長、私と結婚してくれない?」
といきなりプロポーズを投げつける。
「……ケッコン?」
はて『ケッコン』にはどんな意味があったっけ、同音異義語をサーチしても聡太は『血痕』しか浮かばずさすがにそれは却下した。
「結婚…マリッジ、」
「結婚……え、僕?」
「ここには貴方しかいないじゃない」
「分かるけど。いや、何で僕?」
「嫌?」
「嫌とかじゃなくて…え、これ夢?」
「起きてる。現実」
薫は身を乗り出して聡太の温かい頬をぎうと指先で抓り、呆けたその顔を歪ませる。
「痛てぇ」
「…私と、結婚して…欲しいの」
「え、えー…なに、突然…清水さん、僕のこと好きだった?」
無い話ではないが降って湧いたロマンスに口元が緩む。
聡太にとってしばらくぶりの色っぽい話題にアルコールも手伝ってか目もとろんとだらしなくなる。
けれど
「誰もそんなこと言ってないでしょ。説明するから聞いてくれる?」
と冷たくあしらわれて「え、はい」と居住まいを正した。
「まずね、うちの…両親なんだけど、歳でね、そんなに長くないの」
「え、あ…ご、ご病気?」
「…そんな感じ。私、ひとりっ子でね、年取って生まれた子だからもう両親とも70超えてるの。老化と…持病ね」
「はぁ、」
なるほど薫は29歳だから40代で出来た子ならそれくらいにもなるのか。
ひとりっ子ならその重責は彼女ひとりにのし掛かることだろう…聡太もフムと息を飲む。
「両親は三重の実家に居るんだけどね、それで…結婚して、ありがちな話だけど元気なうちに花嫁姿を見せてあげたいの」
「それは大変だけど…なんで僕?」
「…長く一緒に働いてるし…気心知れてるから」
「……知れてるかな」
確かに累積した対話時間はそこそこだろうが、10分以上会話が続いたことも無いのに「仲良し」とも呼べないだろう。
しかも結婚だなんて突飛な話に聡太の心臓はばくばくと高鳴っていく。
薫のことは好きでも嫌いでもないのだ。
それ以前に異性として意識したことが無い。
聡太の方が職歴も立場も上だが構わずタメ口で話す関係性はどれだけこねくっても「慣れてる」が一番しっくり来る。
とても「異性として好き」にはならない。
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