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しおりを挟む時は2017年、5月。
「望地コーナー長、ちょっと話があるんだけど。この後、時間いい?」
場は会社メンバーでの呑み会の席。
だというのに発言の主・清水薫は素面で顔色も変えず、同僚へさらりとアフターのお誘いを掛けた。
「え、仕事のことなら今でも」
「そうじゃないから後でって言ってるの。それとも何か予定ある?」
「いや…」
久々の呑み会だからとハメを外しているのだからその後に予定など組むはずもない。
彼はお開きになれば父と母と住む自宅へと帰ってシャワーも浴びずにベッドへ飛び込むだけだ。
今夜は4月に行った棚卸し作業による後処理が完全に終わったという記念呑み会だ。
まぁ理由など何でも良いのだが気の合う10数名だけ誘ってのこぢんまりとした会だった。
望地聡太は勤続10年目の31歳。
人当たりが良く営業成績もそこそこ、現在はパソコン売り場でコーナー長職を担っている。
コーナー長とは中間管理職とも言えないリーダー的存在で、部門責任者であるフロア長が不在の時などに平社員を束ねるくらいの役割だった。
童顔で丸顔、けれど身長だけは180センチを超えるがっちり体型。
上司からは「ベビーフェイス」と称されたりもする可愛い系…そしてそれを売りににこやかな接客がウケている。
対して清水薫は29歳で聡太より1年後輩、接客業だというのに非常にクールな女性だった。
素顔はおそらくシンプルなのだろう濃いアイラインを引いて眉を吊り気味に描いて、その口紅が無ければ笑っていることが分からないくらいに表情から感情が読めない。
客対応はきちんとするものの同僚や上司に対してはサラッとドライ、それどころか今夜のこのような呑み会になど滅多に現れないレアキャラだった。
聡太は薫とは付かず離れず良くも悪くもない仲、休憩室で隣になれば挨拶と時節に合った雑談くらいは交わすものの個人情報はほぼ知らない。
しかし社内では薫と一番仲が良いのは聡太、それくらいに周囲も認識していた。
しかしそれでも同僚以上同僚以下、つまりはただの同僚でしかないのであった。
「あとは帰って寝るだけ…ならここが解散したら駐車場で」
「ありがと…望地コーナー長は車は?」
「無い。明日休みだし、タクシー使うつもりで朝はバスで来たよ」
「なら…私が送って行く。良い?」
「あー、うん、じゃあお願い」
「分かった」
事務的で簡潔な会話、聡太はこの後何をされるんだろうと酔った頭でぐるぐると考えた。
「(何かしたかな…キャンセル伝票の処理が甘いとか怒られんのかな…でも仕事の話じゃないんだよな)」
普段そこまでくだけた話をしないものだから良いイメージが湧かない。
普段呼び付けられる用事は大体事務関係の不備を叱られるくらいだ。
なのでまさかこの後巨大な爆弾を落とされることになるなんて、今は予想だにせず焼き鳥を頬張った。
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