わかりあえない、わかれたい・5

茜琉ぴーたん

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後日談

悪名轟く

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 私は男友達が多い。女友達は地元が同じ幼馴染みくらいで、ほとんどが気楽な男と仲良くしている。

 最初は大学生の頃。その男友達のひとりAに彼女ができて、こちらとしては「幼馴染みなんだし」と変わらぬ付き合いをしていた。だって恋愛関係じゃないんだし、友達なんだから仕方ない。
 彼女さんの知らない地元の話題で盛り上がって、知らない友達の話で盛り上がって。彼女さんがつまらなそうな表情をするのが堪らない快感で…そう、軽いイジメをしてるみたいで優越感があった。
 結局その2人は別れてしまって、私はその後Aを慰めるという名目で体の関係を持った。そこで初めて私は「Aを彼女さんから奪っちゃった☆」という事実を自覚して、それで至極興奮した。

 それから私はAと付き合ったものの、長く続かなかった。別れて、でもAに新しく彼女ができると私はまた同じことを繰り返した。
 彼女さんの前でベタベタして、何度もした覚えのある思い出話を掘り起こして。そして彼女さんが離れたと知ると、Aを慰めて。
 他の同郷の男友達にも同様にした。
 私込みで仲良くできる彼女さんも中にはいたけど、やはり本心では面白くないと思っているのが言葉や顔に浮かんでいて滑稽こっけいだった。
 人のものを奪るのは楽しいなぁ、人の悔しがる顔を見るのは楽しいなぁ。


 そうして過ごすうちに数年が経ち、社会人になり、いつものメンバーで呑んでいた夜のこと。
 男友達Bの彼女さんが急に冷めた顔でBに別れを宣言した。理由はBと私が仲良くしていたから。そして疎外感を知らんぷりするBに嫌気が差したから。
 場は盛り下がるし最悪、しかし彼女さんは「もしかして貴女、ここの男性全員と関係あるんじゃないの?」と私に爆弾を落として帰って行った。
 不覚にも図星を突かれた私は言い返すことが出来ず、慌てて弁明を考えるも投げるには間に合わなかった。
 騒つく席で、男性陣は周囲をキョロキョロと見回し「え、お前もなの?」「いつから?」と確認し始める。
 それぞれに「仲間内で関係してたら気まずいから、絶対内緒にしようね☆」と口酸っぱく言いつけてあったのに、コイツらは簡単に破りやがった。
「……」
「……」
 やがて注がれる私への視線、軽蔑と疑いが入り混じる。
「や、やだなぁ、きちんと交際してたじゃん。二股とかはしてないから問題無いでしょぉ?」
「そうだけどさ…」
「幼馴染みだから仲良くしようよ、ねっ」
「……俺、帰るわ」
「待ってよ、」

 わらわらと男たちは帰ってしまい、後には狼狽する私だけが残された。
 情けで会計はしてくれたみたいだけど、その後男友達とは連絡が取れなくなった。

 私はもう、地元に帰れない。先日、地元に残る女友達から「あんた、同級生の男全員を寝取ったんだって?」と連絡が来たためだ。
 同級生って何人いると思ってるの、しかし事実に尾ひれ背びれが付いて不名誉な噂に育ってしまっているらしい。
 私の親にも伝わったらしく「あんた、しばらく帰って来ないでくれる?娘が非常識な阿婆擦あばずれなんて世間体が悪くて表歩けないのよ」と電話が来た。
 弁解はしたものの、当事者の親が火消しをしたところでどうにもならないみたいだ。
 そしてセンシティブな話題だから表立って批判はされないらしいのだが、無神経なオヤジなどは大声で「みっともねぇな」と言ってくるのだという。

「どうして、私、何も悪いことなんてしてないじゃない」
『そうかもしれないけどさ、似たようなことはしたんじゃないの?人に意地悪したら自分に返って来るのよ、そういうもんよ。私は老後の計画を早めて父さんと隣町にでも引っ越そうと思ってんのよ。お兄ちゃん夫婦の家の近くにさ。あんたはそっちで頑張んな、人の噂も七十五日ってね、じゃあね』
「ちょっと、おかあさん、おかあ、さん…」
 別に地元に戻れないくらいなんてことはない、でも親が引っ越したら「噂は本当だったから気まずくて逃げたんだな」と信憑性が増すのだろうか。
 親も、友人も、頼れる人がいなくなった。


 その後、地元で私は『伝説のヤリ○ン』として名が轟いているらしい。別に、街でやって行くからどうだって良いし。今は品行方正に生きてるんだから、どうだって良いし。
 でも、でも…将来結婚を考えた相手が身元調査をしたら、私のあの噂にたどり着いてしまうんだななんて想像すると…恐くて恐くて仕方がない。
 新しい恋はしたいけど、相手が誠実であればあるほど気後れしてしまう。

「ごめんってばぁ…」
繋がらない連絡先をタップしては、がっくり項垂うなだれる。

 届かない懺悔を吐いて吐いて、夜明けを待つ日々が続く。



おわり
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