先生、秘書に赤ちゃん扱いされる気分はいかがですか?

茜琉ぴーたん

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能事畢矣—のうじおわれり—

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 それから1年と数ヶ月後、養母が亡くなったと報せが来た。

 長患いの後、最後の養女に見送られ旅立ったそうだ。


「…そうですの」

「代理人の方から連絡が来たよ。これ以降は養母さんのビジネスも闇の中に消えていくんだろうね」

「上手く、証拠を隠してもらえると有り難いですわ」

 育ててもらった恩はある。

 教養もしつけも、養母がいなければ身に付かなかった。


「いくらか…包もうか」

「いえ、それはいけません。先生は絶対にお名前を出してはいけません」

 議員秘書たる私が、堂々と香典を贈るわけにもいかない。

 養母がしていたのは犯罪行為だし、バックには反社会的組織が付いているからだ。

 そして先生からももちろんアウトなので、お悔やみを送るなら秘密裏に行わねばならない。

 郵便で届けてもらうのが良いか、しかし窓口で顔を晒したり封筒などから足が付くのはまずい。

 私が決めかねていると、先生は「知り合いに相談してみるよ」とスマートフォンの電話帳を開く。

 そして、どこかに連絡し始めた。


「もしもし、代理人から連絡が来たろう、それで分かるかな。お悔やみは贈るつもりかな、うん、うん………そうか、参考にさせてもらうよ、ありがとう…通話履歴は消しておきなさい、それでは」

「先生?どちらに…」

城廻しろめぐりくんだ。彼の奥さまも…君と同じ境遇だったろう?」

「…ご存知でしたの」


 先生と同じ党に所属する若手の城廻さんは、私の後輩とも呼ぶべき女性を妻にしている。

 彼の祖父が契約して女を孫に当てがったという…一見すると汚らわしい話だ。

 結婚までさせるつもりが無かったところを城廻さんは闘い、「彼女と結婚出来ないなら議員にはならない!」と祖父を脅して意志を通したそうだ。

 祖父は名誉と威厳を何より大切にしていたそうで、孫の決断に渋々従ったのだとか。

 その城廻さんの妻と私との仲は、学生時代の先輩後輩と伝えていたのに…先生は本当のことを知っていたらしい。
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