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衷心—ちゅうしん—

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 私が今夜これを切り出したのは、理由があった。

 虐めている時の先生の興奮度合いが下がり、数回何か口をモゴモゴさせては諦める様子が見て取れたのだ。

 喘ぎたいのを我慢している、最初はそう思った。

 けれど乳房への干渉が多くなりモゴモゴが頻繁になり、先生は想いを吐露しているのではと考えた。


「先生、」

 すっかり穏やかになった先生は私の顔を見上げようと頭を回す。

「うん?」

 私はその痩せた頬を摩って目が合うのを待って、

「お母さんと、呼んでもよろしいのですよ」

と笑ってみた。

「……っな、関口くん」

「呼びあぐねていらっしゃるのかと」

「ち、違う…」

「モゴモゴと、してらっしゃるのが増えましたので」

「ちがう、違う…」

 仕事中でもこんなに取り乱したことはありませんわね、先生はまるで思春期の少年みたいに目線を逃してそっぽを向く。

「勇くん、と呼ばれておいででしたか?」

 もう先生ほどの年齢と地位になれば、下の名呼びされることはそうあるまい。

 まして君付けなどは、余程親しい同級生や国会で指された時くらいしか出番がないだろう。

 当てずっぽうで呼んでみたが、図星だったのか先生はきゅうと目を絞って口を震わせる。

「勇くん」

「…ちがう」

「勇さん?」

「違う…」

「勇…ちゃん?」

 いかにも教育ママが使っていそうな敬称を口にすれば、その可愛らしさについ口角が上がる。


 一方の先生はカッと目を見開いて瞳をうるうるさせた後、小さく

「…おかあさん…」

と呟いた。
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