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衷心—ちゅうしん—

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 またしばらくした日。

 この頃はSMプレイと言うよりは赤子と母の様子を模したそれになっている。

 乳に、腹に、尻に、私の女性らしさを含む箇所に執着しては先生は満足なさっている。

 相変わらず一線は越えていなくて、興奮は見てとれるから少なからず性的な意味はあるのだと思う。


「先生、先生はご自身の趣向の成り立ちをお母さま由来だと仰いましたわね」

射精こそしないものの、ひと通りの盛り上がりを済ませてから私は尋ねた。

「あぁ、それで弱みを見せることを覚えた…それが?」

「もしかして、先生はパートナーに母性を、お母さまたるものをお求めなのではないでしょうか」

「…母の?」

やっていることはとうにそれを示していたのに、先生はお気付きでなかったようだ。

「先生は厳しかったお母さまのように、自分を律してくれて時に手を上げて引き締めてくれる…虐めてくれる女性をお求めでした。しかし本当は、支配されることではなくお母さまそのものに執着してらっしゃるのでは?」

「確かに赤ん坊みたいに甘えたりはしたが…」

「甘えたいんですわ、本当は叱られたいのではなく。そしてお母さまを抱きたいとお思いになったあの気持ち、あれは文字通りの意味ですわね、強い女性に支配されたいのではなくて、母親というものと関係を持ちたい、」

「ははっ、なんだいそりゃ…そんな…それじゃまるで僕は、僕は」

「マザコン、と呼ばれるものではないかと」


 母という概念にこだわるのか、それともご母堂に執心なのか。

 どちらにしても母を異性として意識して、捌け口にしていたのだから引け目のある先生はバツが悪そうに

「…関口くん、口が過ぎるぞ」

と私を叱る。

「先生、先生は母に思うように甘えられなかった幼少期の自分も消化しきれてないんですわ」

「僕はそんな甘えん坊ではない。小さな頃から神童と呼ばれて、」

「泣き言も言わずお勉強をしてらしたんでしょう?偉いですわ…先生、お膝にいらして」

 ぽんぽんと太ももを叩くと、僅かに逡巡なさった先生は体勢を変える。

 そして白髪混じりの頭を私の腿へと載せた。

 私の体自体に母性を感じて下さるかしら、じっと動かない顔を見下ろす。

「いかがかしら」

「弾力があって…でも柔らかくて…気持ちが良い…」

「そう…先生は頑張り過ぎなんですわ。関係性に水を差すようで抵抗があるのでしたら、お願いして下さればプレイとは別でこういった時間を設けませんこと?私に虐められるのも良し、私に甘えるのもまたよろしいのでは?」

「……してくれるなら…お願いしたい」

「えぇ…構いませんことよ」

 今、私たちの立場は揃っている。

 上でも下でもなく、同じ地点に居る。
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