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濫觴—らんしょう—
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しおりを挟むそれから数分、先生に右と左と乳房を吸わせた。
吸って「頂いた」と言うよりはその方が合っている。
「ぷはぁ」と自ら離れたのをひと区切りとして、満足げな先生の手首を自由にして差し上げた。
「お可愛らしかったですわ、先生」
「…恥ずかしいね、この歳になっても母に執着しているなんて」
「親を大切に思うのは良いことですわ」
「…生きている間に、良くしてあげられれば良かったんだがね」
先生はさっきまで私を含んでいた口からため息を吐く。
先生のお母さまは、既に鬼籍に入っている。
事前情報によると、自宅で倒れて緊急搬送され、数日の入院ののちに亡くなったそうだ。
「随分とヒステリックに怒るようになっていたからね、脳の血管が耐えられなかったのかな」なんて先生は茶化した。
「ショックでしたでしょう?」
「まぁね、しかし…解放されたのが嬉しくもあったし…パートナーを永遠に失ったような気持ちもしたし…色々だ。父親も数年後に逝ってしまって、資産を持て余したのも君と出逢うキッカケのひとつだね」
先生は無意識に私の胸を見遣っては、その向こうに別のものを投影しているらしかった。
それは亡くなったご両親だろう、うっすら瞳が潤んでいるようにも見える。
「…今日は、先生の歴史を知れて、嬉しかったですわ」
「オジサンの戯言だよ。…関口くんの生い立ちもあらかた聞いている。僕と君は金で繋がった関係ではあるが、僕が働き続ける限りは衣食住に困らせるようなことはしないと誓う。だから僕はこの趣味を隠すし、関口くんは僕が頑張れるよう支えて欲しい」
「はい」
「君には楽しい恋愛や、子供を持ったり結婚さえも経験させてあげられないが…生活は保障するから」
「充分ですわ、先生…ありがとうございます」
温かい食事を貰えるだけでも有り難いというもの、私は心からの笑みを贈った。
施すことで対価を頂ける、これはただ与えられるだけよりも快い。
負い目を感じなくて済むし、達成感だって得られる。
生活に張りが出るし自己研鑽に磨きがかかる。
そして相手が先生だということも都合が良い。
私は議員として人間として先生を尊敬しているし、彼に仕えることに生理的な嫌悪感が無い。
そうするために訓練を積んだ訳だが、それにしても先生は私に合っていた。
敬える人でなければ秘書としての業務にも身が入らないだろうし、体を合わせることは苦痛でしかない。
私の感情を買い上げるために養母に大金が払われているが、この平穏な暮らしがあるなら無償でも良かったくらいだ。
どちらにしても、その大金は私に入る訳ではないから関係ないのだけれど。
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