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3月
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しおりを挟むそれから数日後、3月も下旬。
「アイカちゃん、その…生理は終わった?」
「はい、すっかり出切りましたけど…なにか?」
「出切るとか…」
夕食を終えて誘いを掛けようと思ったのに、和田は愛花からの色気の無い返答に頭を抱える。
「そんな聞き方するから…なんですか、豊さん、」
「……分かってるくせに…あ、アイカちゃん……だ、抱きたい、」
「オナニーならひとりでなさってくださいよ」
「意っ地悪やなぁ」
セックスに関する意見交換をしてから数日愛花はお泊まりを断っていて、それは暗に明に「エッチしたくないです」という意思であることを示していた。
仕事帰りに食事はするもののすぐに解散、先日やっと休日デートにて話し合いと所信表明を聴いてもらったところなのである。
ならばと愛花はカレンダーを片手に自身のバイオリズムを説明し、「いつ、何を、どうすれば」都合が悪いのかを授業して和田はしっかり理解した。
しかしその日から生理期に入ったためスーパー銭湯からのお泊まりも延期、長らく待っての本日なのである。
「どこにします?」
二人は車内でスマートフォンの明かりに照らされて、指でスクロールすれば愛花のメガネに画面の写真が反射してつるつると上に流れていく。
今調べているのは近隣のラブホテルで、これは希望のセックスに近付けるための第一の足掛かり…互いに慣れ過ぎた感覚に新鮮さを取り戻すためエッセンスなのであった。
「うん、ん…?アイカちゃん、色っぽいな…」
「なにがです?顔?」
「いや…あ、何か付けてる?香水とか…ええ匂いする」
「少しだけ。よく分かりましたね」
「この距離やから……うん…アイカちゃんに告白した時のこと思い出すわ…あれは緊張したなぁ…」
「ふふ、今もしますか?」
「…ちょっと…するなぁ、うん……ええ緊張やで、もう…勃ってるし」
「はい、減点ー」
「なんで、ええやん、これもあかんの?」
これも今回の計画のひとつで、愛花的には苦手ではあるが「ロマンチックを気取ってみよう」という取り組みである。
初めての逢瀬のように緊張感を持ち敢えてホテルで致す、子供っぽい下ネタは禁止のデートをしてみるという企画。
早々にボロが出たわけだが、その失敗も楽しみとして演じてみようと二人で決めたことだった。
「言い方、」
「……アイカちゃんのフェロモンに当てられてもうて…興奮してる」
「わぁ嬉しい♡」
「……猿芝居やなぁ…まぁええけどや……ほな、このホテルでええかな、」
「ここ?いいですけど決め手は?」
「露天風呂、空いてたらここにしたい。一緒に風呂入りたいねん」
これまでのお泊まりは入浴はスーパー銭湯で済ませるか和田のアパートのシャワーばかりで、二人で湯船に浸かるという経験はしたことがない。
「はい…そうしましょ、」
「うん」
車は国道を越えて郊外へ、眩く白色に光る海外リゾート風な雰囲気のホテルへと入って行く。
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