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2月
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しおりを挟む玄関を入って荷物を置くと、愛花は人の家ながら慣れた手つきで買った食品を冷蔵庫へと収めていく。
豆腐・天かす・ネギ、これらは明日の和田の夕食になる予定である。
「アイカちゃん、そろそろ…」
「はい?」
「チョコ、ちょうだいよ」
和田は照れもせず、冷蔵庫の扉を閉めたばかりの愛花をバックハグした。
「あ、そうだった…かばん…」
「うん、」
愛花は玄関の床に置いたバッグを取りに向かうも、和田が手を離さないのでちょこちょこ足を動かして彼を引っ張って進む。
「甘えたいんですか?もう、重い…」
「あのチョコの店、仰山客がおったやんか、女性客ばっかり…あん中でアイカちゃんが埋もれていくんが、見とっておもろかったわ…」
「失礼な……私こそ、照れてる豊さんに萌えましたよ。…はい、渡す時は正面がいいんですよね、離して…」
密着した和田を引き剥がして向き合おうとすれば、男は玄関では嫌だったのか、
「ん…あっち行こか」
とリビングへ戻ろうと誘導した。
「そんな改まってするようなものですか?たかだかバレンタインを、」
「初めてやねん、バレンタインの時期に彼女がおんのが」
そう言ってニマーと笑う和田は少年のようで可愛らしく、愛花の僅かに残るピュアな乙女心を擽る。
「あ、そうなんですか…んー、では、和田豊章さん!」
「はい!」
「バレンタインのチョコレートです、受け取って下さい!」
「ありがとう!」
まるで卒業証書授与式、二人はキリッと表情を作り受け渡しを行った。
「……なんですかコレ」
「はは、行事は全力で取り組まな、ね、」
「食べていいですよ、もう運転しないならボンボンの方でも」
「せやね…アイカちゃんも一緒に食べよ、今日も泊まればええやん。コーヒー淹れるわ」
和田はやはりニコニコと包みを開けて中身を確認し、ボンボンをふたつ取り出して残りは「ありがたや」とばかりに額の前へ掲げてから冷蔵庫へ収める。
湯気の上がるコーヒーと常温のチョコレート、リビングで座卓に並べて和田はスマートフォンで写真を撮る。
「映えやな、な、食おう」
「いただきまーす…ん、濃いー………私も、こんなにキチンと男性に渡したのは久々ですよ。友チョコとか義理チョコは毎年やりますけど」
「あー、本当…咽せる……いや、嬉しいな」
かわいいな、褐色の頬を染めてはにかむアラフォー男性にそんな感想を抱いた愛花には、ふと西洋行事と日本の寺というミスマッチな関係性と疑問が頭を過った。
「あの、思ったんですけどね?かつての元カノさんたちって、豊さんがお寺の生まれって知ってたんでしょうか?」
「あー……いや、ほら…俺、岡山やのに関西弁なんいじられたないからさぁ、地元に隣接する兵庫の地名とかで濁してたけど…寺やっていうのは…あんまり言うたことないかな。そこまでの仲にならへんこともしばしば…なんで?」
「いえ、もしかしてですけど、跡取りだと思い込んで『お寺に嫁ぐのは遠慮したい』って思いの方もいたのかなーって。敷居が高いというか、お堅そうじゃないですか」
住職の嫁の仕事は幅広い、覚えることも多そうだし檀家の相手もしなければならない。
人付き合いが苦ならばとても務まらない、精神的にも肉体的にも重労働であろう、兼業も認めらないイメージがある。
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