そういうギャップ、私はむしろ萌えますね。

茜琉ぴーたん

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1月

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「所長は、実家は帰りましたかぁ?」

もはや勉強会でもない、いつものファミレスでの二人きりの新年会で愛花は和田に尋ねた。

「いや、母親に様子伺いの電話しただけよ。うちは兄ちゃんの嫁さんとか子供もおるし…行っても『早よ結婚せぇ』言うてせっつかれんねん…山陰から戻った時に顔出したくらいやな」

「ほー、シンクロです、私も親から同じような事を言われましたよ」

愚痴に次ぐ愚痴、親の気持ちも理解できるが好きに自由に生きさせろと二人の口は止まらない。

「結婚して幸せになれるとも限らないでしょう?相手が浮気したりしたらもう…」

「それ見極めるんは難しいな、籍入れた途端に尻に敷かれたりな」

和田は愛花をチラと見てから定食の味噌汁をすすった。

「あれ、所長は亭主関白タイプですか?」

「そりゃそうやろ、俺が養うんやから。ある程度は慎んでもらわんと」

偏屈な眉毛をぐにっと上げ、和田は少し踏ん反り返る。

「それ、女性の前で言っちゃダメですよ」

「吹竹さんも女性やんか…」

「ほんとだ」

愛花は笑いながらフライドポテトをもぐもぐと頬張った。

「ケチャップ付いてんで、口の端」

「ん、失礼…」

和田からの指摘に愛花は大きな目を伏せて薄く唇を開き、中指でケチャップを拭ってその指を舐めとる。

 更にぺろぺろと口周りを舐めた。

「吹竹さん…これ使い、」

一部始終を見ていた和田はどうも居た堪れず、テーブルのペーパーナプキンを一枚取ってアイカへ差し出す。

「どうも…お行儀悪かったですか」

「いや…俺は構わんけど……吹竹さんはガキみたいなとこもあんねんな」

「所長からすればガキでしょうよ…見逃してくださいな」

愛花はいい大人だが、和田よりも9歳は年下なのである。

「物を知ってるし、人生達観たっかんしてそうな…食えん感じがするんやけど、意外と子供っぽいねんな、小動物みたいや。口いっぱい頬張ってもぐもぐするやろ、」

「ん?ケンカします?」

「なんでよ、ちゃうよ。褒めてんねん、可愛いって」

「もー、やだー……」

普段ならお世辞としていなせるのに少し引っかかってしまったのは、親に言われた『結婚』の文字がチラついたからだろうか。

「所長、いい人が出来たら…教えて下さいね、独り身同盟の一員として…応援しますから」

「そらおおきに。組員増やそか、もっとおるやろ」

「案外、みんな恋人いるんですって」

「そうか…なんや俺恥ずいな、最年長で最後まで売れ残りそうやわ」

 メインのチキン南蛮をかじり、酸味のせいだけではない渋い顔つきで和田が呟く。

「それなら…」

「うん?」

「所長が40歳になってもお独りだったら、私が立候補しますよ」

愛花は眉を下げてニッコリ笑った。

「……そう?おおきに…冗談でも嬉しいわ」

社交辞令を間に受けるほど純ではない、和田もニッコリ笑って返す。


「ふふ……てか、ちょっと照れたりしません?可愛げないですね」

「そんなん本気にするほどガキちゃうのよ、アラフォーやねんから」

「モテる人は違うなぁ……」

からかうつもりでも無かったのだが、まぁそんなもんだろうと愛花はソーセージをパキパキと音を立てて口へ収めた。


「独り身言うたら、松井まついくんとかは?あれも悠々自適な独身貴族やろ」

 それはドライブやホームパーティーなどのレクリエーションを楽しむ通称「松井会」の主催・白物担当の松井のことである。

「あー、あの人は自分が主催するのが好きなんですよ。リーダーとか幹事とか。この緩い同盟には馴染みませんよ」

「そう?……ん、なんか苦手?」

言葉はそうでもないが言い方にトゲを感じた、和田はその違和感へ少しだけ触れた。
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