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12月
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しおりを挟むパーキングに着いて精算機の前へ立つと、和田がシャッキリと財布から千円札を出して紙幣投入口へ挿した。
「払わせてくれ、吹竹さん」
「ありがとうございます」
愛花の車は小ぶりな軽自動車、和田の体躯を収めるには助手席では足りないかと心配したが、本人は何も言わずに来た時と同じように腰を屈めて乗り込んだ。
「ナビにご自宅の場所を設定してくれますか?」
「ん…うん………ちぃこいなぁ……あー間違えた……」
和田はレジ同様に目を細めてカーナビの画面を睨みつけ、爪でポチポチと入力をしていく。
暗がりでナビの明かりに照らされた眉間のシワが険しくて、なのにちまちまと指を動かす動作がミスマッチで可笑しい。
「吹竹さん、笑てへん?」
「いえ、とんでもない…」
「できた、お願いします」
ナビが目的地への案内を始め、愛花は若干のアルコール臭さを感じながら車を出した。
「吹竹さんは、どこ出身?」
「岡山の端の方ですよ」
「は?ほんまか…」
助手席の和田は素早く愛花へ顔を向けて続ける。
「いや…俺も…秘密やで?黙っとってな、……岡山生まれやねん…」
「あら、同郷じゃないですか、どのあたりですか?」
聞けば和田は岡山県の兵庫県寄りの北部、愛花は広島県寄りの北部の出身であった。
「はぁ…なんで内緒なんですか?そもそも、誰に?」
「んなの………」
「ははぁ、守谷フロア長ですね?」
早めに察した愛花が横目で確認すれば、和田は決まりが悪そうに窓へ顔を逸らした。
「岡山やのに関西弁使うてんの、なんや……滑稽やろ?本場のもんからすると…」
「まぁ…そうですかね?」
彼はもう関西圏に20年弱は住んでいる。
言葉がうつっても何ら問題にならない程のキャリアだと思うのだが、ネイティブにそれがバレるのは非常に都合が悪いらしい。
「嫌やんか…元々、生まれた所も関西訛りの土地ではあったけどや…恥ずいねん…」
「そんなもんですかぁ…」
「嘉島チーフ…今は副店長か、あの人かて色んな土地経験してんのに東京弁喋らはるやろ?あんなんはカッコええやんか…俺はもう…抜けへんねん…今更標準語も使われへん…はぁ…」
確かに嘉島は出身は九州、兵庫に来て8年だが都会的な標準語をサラリと話すし訛っていない。
「まぁまぁ…あ、私の前でしたら岡山訛りでも大丈夫ですよ?」
「ほんまに?…まぁ訛りもほとんど抜けとるけど……いけん、嬉しいわ…」
「ふふ、『あかん』と『いけん』って似てますね…語源はきっと一緒なんでしょうね、ふふっ…方言萌え」
二人にまた新たな繋がりができた、車内に和やかな空気が戻り愛花はホッとする。
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