上 下
10 / 82
12月

9

しおりを挟む

 パーキングに着いて精算機の前へ立つと、和田がシャッキリと財布から千円札を出して紙幣投入口へ挿した。

「払わせてくれ、吹竹さん」

「ありがとうございます」


 愛花の車は小ぶりな軽自動車、和田の体躯を収めるには助手席では足りないかと心配したが、本人は何も言わずに来た時と同じように腰を屈めて乗り込んだ。

「ナビにご自宅の場所を設定してくれますか?」

「ん…うん………ちぃこいなぁ……あー間違えた……」

和田はレジ同様に目を細めてカーナビの画面を睨みつけ、爪でポチポチと入力をしていく。

 暗がりでナビの明かりに照らされた眉間のシワが険しくて、なのにちまちまと指を動かす動作がミスマッチで可笑しい。

「吹竹さん、笑てへん?」

「いえ、とんでもない…」

「できた、お願いします」


 ナビが目的地への案内を始め、愛花は若干のアルコール臭さを感じながら車を出した。

「吹竹さんは、どこ出身?」

「岡山の端の方ですよ」

「は?ほんまか…」

助手席の和田は素早く愛花へ顔を向けて続ける。

「いや…俺も…秘密やで?黙っとってな、……岡山生まれやねん…」

「あら、同郷じゃないですか、どのあたりですか?」

 聞けば和田は岡山県の兵庫県寄りの北部、愛花は広島県寄りの北部の出身であった。

「はぁ…なんで内緒なんですか?そもそも、誰に?」

「んなの………」

「ははぁ、守谷フロア長ですね?」

 早めに察した愛花が横目で確認すれば、和田は決まりが悪そうに窓へ顔を逸らした。

「岡山やのに関西弁使うてんの、なんや……滑稽こっけいやろ?本場のもんからすると…」

「まぁ…そうですかね?」

 彼はもう関西圏に20年弱は住んでいる。

 言葉がうつっても何ら問題にならない程のキャリアだと思うのだが、ネイティブにそれがバレるのは非常に都合が悪いらしい。

「嫌やんか…元々、生まれた所も関西訛りの土地ではあったけどや…恥ずいねん…」

「そんなもんですかぁ…」

「嘉島チーフ…今は副店長か、あの人かて色んな土地経験してんのに東京弁喋らはるやろ?あんなんはカッコええやんか…俺はもう…抜けへんねん…今更標準語も使われへん…はぁ…」

 確かに嘉島は出身は九州、兵庫に来て8年だが都会的な標準語をサラリと話すし訛っていない。

「まぁまぁ…あ、私の前でしたら岡山訛りでも大丈夫ですよ?」

「ほんまに?…まぁ訛りもほとんど抜けとるけど……いけん、嬉しいわ…」

「ふふ、『あかん』と『いけん』って似てますね…語源はきっと一緒なんでしょうね、ふふっ…方言萌え」

 二人にまた新たな繋がりができた、車内に和やかな空気が戻り愛花はホッとする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...