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4月(最終章)
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しおりを挟むそれから10日後。
「もしもし…なんや、なに、うん、……色は?………ええよ、出したるわ。物流でええか?うん、…和田は?元気してんの?」
「!」
配送工事カウンターで待機していた愛花は、隣のパソコン席に掛ける守谷チーフフロア長の口から恋人の名が出てきてぴくんと肩を震わせた。
和田は北店へ帰って行き向こうではこちらで学んだことを活かして頑張っている様子で、在庫を分けて欲しいときなどはこうして店舗間のIPだったり管理職に直接だったり連絡を取って来る。
「(元気そうだな)」
「吹竹さーん、修理受付入ってー、」
「はい、」
この頃愛花は本格的に配送工事カウンターへ入り始め、カフェと持ち帰り品用レジの出番が大きく減った。
客からの修理相談や金庫業務も増やしていき、遅番勤務がメインになりつつある。
和田も和田で疲れているのかデートのお誘いがピシャリと絶え、この1週間ほどはちょいちょいとメッセージのやり取りをするくらいになっていた。
まさかこのまま自然消滅なんてあるまいね、愛花はそわそわとカウンターで修理受付作業に入る。
そんなことをしつつ手が空いたお昼前、遅番で出勤してきて引継ぎノートを確認する陽菜子へ愛花は挨拶をして雑談を始めた。
「…ヒナちゃんはさ、店が離れても寂しくない?」
「誰と?」
「旦那さんとだよ、」
「うーん…うちは…内緒ね、健一さんが寂しいからって先に入籍したの。帰ったら会えるし」
2月に突然交際・入籍宣言をした嘉島夫妻、仲が良いとは思っていたがほとんどのスタッフが寝耳に水で、その日は店がひっくり返るくらいに各所で驚きの声が上がったものだ。
「ほー」
「実際ね、店は離れて良かったと思ってるんだ」
「え、なんで?」
「だって…何するにも『チーフの奥さん』って目で見られちゃうから…ミスとかして健一さんの評価が下がっちゃったりしたら嫌だなとか思ったり…逆に私の評価が上がっても依怙贔屓だと思われたら報われないし…なんか付属物みたいに思われるのもしんどい…でも同じ苗字で呼ばれるのは嬉しい♡…アイカちゃん、お昼行ってきなよ。いらっしゃいませー」
そこまで言うと、陽菜子はカウンターを訪れた客対応へと入る。
「管理職の妻、かぁ……ふむ、」
愛花はマイボトルを掴んでバックヤードへ下がり、少しこの先のことを考えてみたりした。
・
一方その頃北店では、エリアマネージャーの嬉野と和田が人気の無い倉庫の奥で話し合いを持っていた。
「そういうわけで…どう?」
「…はい、あのー、是非にお受けします!」
「うん、分かった…和田くんはご家族は?」
「いえ、まだ独り身で」
「そう、じゃあ社宅は単身者用でいいかな」
「あー…っと…そう、です…ね…ひ、ひと晩貰ってもええですか?」
上長に1日の猶予を貰い、和田は愛花へ『今夜会いたい。話がある』とメッセージを打ち売り場へと戻る。
ちょうど昼休憩だった彼女からは『了解です』とスタンプが返ってきて、和田はふふと微笑んでからスマートフォンを後ろのポケットへ収めた。
「……ついて…いや、まともなプロポーズが先か…」
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