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4月(最終章)
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しおりを挟む「(……連絡をまめに取り合わないとなぁ…)」
昼休憩に入った愛花はスマートフォンを開き、メッセージアプリでの和田とのやり取りの履歴を振り返る。
コミニュケーション上手な愛花だが意外や筆不精で、『なにしてる?』『元気?』といった当たり前に決まり切ったやり取りがあまり好きではなかった。
面倒、とはまた違うのだが恋人が休みに何をしていようとそこまで気に掛からないし、自分もまた過干渉は苦手である。
互いに実りある時間を過ごすことが一番良いと思っているのだ。
なので自動的にシフトが分かりどんな様子か見える職場恋愛は彼女に合っていた。
「(連絡が無いからって寂しがる方が可愛いんだろうけど)」
和田はなかなかロマンチックを好むので女性へのイメージも固まりがち、こちらから様子を伺ったりたまに浮気を疑ったりでもしなければ気持ちを疑われそうか。
無理をしてでもメッセージを送らねばな、愛花はそんなことを考える。
「アイカちゃん、ここいい?」
「あ、おつかれ、どうぞどうぞ」
隣に座ったのは商品管理室の知佳、和田との仲も知る彼女はチーズおつまみを開けて摘み出した。
「…それ昼ごはん?」
「うん、チーズ好き。てかアイカちゃん、今日で最後じゃん…寂しくない?」
「全く寂しくないと言えば嘘になるけどあんまり寂しくないんだよね、元々が期間限定の上司だし」
「うん、そっか…」
「寂しくてやってらんない!って泣き濡れる方が可愛いと思う?」
「あー、私は付き合ってられない」
ほどほどの惚気とほどほどの悩み、度を越したカップル話は酒でも入らないと長々聞いていられない…それが知佳の本音である。
「だよね、ムラタの女性陣って本当サラッとしてていいわ」
「そかな」
「デートとかするしね、あんまり寂しくないんだよ。世の中のカップルってほとんどが職場は別だろうし」
「うん…送別会も…あ、なんか聞いた?送別会で余興とかさせられるかもって」
「聞いた。松井さんから打診があったけどしなくていい感じに言ってたけどね」
先日彼女たちの元へ松井がやって来て「余興、したくないよな?」と明らかに「させたくない」空気で問われた。
というのも、月末に予定されている歓送迎会、副店長の石柄が「女性陣に余興をさせればいい」と幹事の松井へ強要しているらしい。
春の新人歓迎会では前年度の新人が何かしら余興を見せるのが通例ではあるのだが、この新しい副店長はセクハラ・パワハラの前科があるらしく松井はどうも嫌な予感がして敵わないのだと言う。
「うん、させたくないみたいな…変な感じだったね」
「んー…」
愛花にとって松井は1週間だけ交際した元カレ、今は普通の同僚に戻ったし食事会なども参加するが改まって2人きりで会話することはあれ以降無かった。
それが先日レジの同僚と金庫業務をしている所に訪れて「余興、したくないよな?」と心底嫌そうな表情で「はい」を引き出して帰って行かれた。
いつもレクリエーションは率先して仕切りたがる彼があんなに不穏な面持ちで…以来、打診を受けた女性陣には妙な緊張感が漂っている。
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