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2月

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 2月上旬。

「なぁアイカちゃん、」

「はい、ユタカさん」

「世間はバレンタインムードなんやけど…なんやくれたりする予定はあんの?」

 仕事終わりからの銭湯を経由しての和田わだの部屋、二人はまったりとお茶を飲みながら夜11時台のニュース番組を並んで観る。

 先ほど寄ったスーパー銭湯の今日の日替わり湯は「ヴァレンタイン風呂」だった。

 茶濁色の薬湯に甘い香料でさながらホットチョコレート、和田は浸かりはしなかったが強く印象に残っていたのだ。


「あー、チョコレートお好きですか?」

「甘いもん好き。なんでも食うよ」

「はぁ。考えておきますね、お取り寄せ…あ、そうだ。贈り物のルールを決めておいていいですか?」

「なに」

ルールだなんてカップルらしい、和田はにわかに活気付く。

「プレゼントの上限金額を決めておくんです。私は正直、あまり高額なものを頂くのは好きではないんです。自分で買うのは達成感があって好きなんですけどね」

「うん?」

「だから3千円、これを上限としましょう。これより高い物は贈ってはいけません」

「学生ちゃうねんから…もっとええもん贈らせてよ…」

男は眉毛をぐにんと下げ、あからさまに不満をそこで表しながら口でも同様に不平を漏らした。

「じゃあ5千円」

「んー…分かった、平等やな…」

「あと、消え物以外は本人の好みを聞いてから買うこと」

「はぁ?サプライズちゃうやんか、」

「着ない色の服とか、ブランド名にこだわって使い勝手を無視した財布とか、過去に頂いて困った事があるんですよ。身に付ける物は本人の希望を聞いてから、これは絶対です」

「現実的やなー…新感覚やー…」

ハッキリ言って贈ったことがある、和田はグサグサと胸に刺さった矢の痕を感じながら愛花あいかの肩を抱いた。


 二人が交際を始めて2週間ほど、仕事帰りにこうしてお泊まりをするのは今日で3回目である。

 キスやハグは当たり前のようにするが、セックスは未だ無し…純といえば純な関係である。

「ん……ハ……」

 上唇と下唇、互い違いに喰みあって愛花の舌がちょんと表面に触れれば、和田の背筋がピンと伸びて肩に乗った手にも瞬間力がこもるのが分かった。

 手を離して正対し、部屋着のパーカーのファスナーに手を掛けられると愛花も構えたが、ほんの少し下げて止まったので拍子抜けする。

「なんやの、ガッカリすんなて」

「してませんよ、ちょっと構えちゃっただけです」

「ゆっくりでええやんか、ん」

和田はそう言うと愛花の鎖骨へ少し湿った唇を付けて、最初は優しく、次第に力を込めて吸い付き、濃い濃いキスマークを付けた。

「んン…あ、もう…」

「はは、しっかり付いた。アイカちゃん、誰にも見せたらあかんで、な、」


 強引そうでオラオラっぽくて限りなくSっ気を感じるのに、その実そうでもない。

 紳士なのかチキンなのか、過去の女性が残した「イメージと違う」との言葉はこのあたりの事を指しているのだろうか。

 愛花は今夜もそんな考察をする。

 自分から襲うのもありだが流石に避妊具の持ち合わせが無いしサイズも不明。

 となれば明らかにセックス目的でホテルへ誘われるのを待つのが良かろうと思うのである。

 金に糸目はつけないようだし、このごちゃごちゃした部屋ではどうもムードにかける。

 何となく、流れで、言葉にせずとも雰囲気でセックスになだれ込むような…大人ならそんな導入ができる関係を築きたい。

 アラサーの愛花としてはそう望む。

 もっとも、愛花に至っては「スる?」の一言でセックスを始めてしまえるカジュアルさがあるのだが、二人初めてのコトはそれで済ますには勿体無いだろう。

 自分に魅力が無いわけでは無い、愛花は鎖骨の上の温もりに触れて、むふと笑った。
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