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1月
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しおりを挟む1月下旬。
「ほな、下で」
「はい」
その日の仕事終わりに和田と愛花は偶然タイムカードの打刻が一緒になり、約2週間ぶりに夕食を共にすることになった。
手を繋いだあの夜からこれまで日中の様子は特に変わることなく、会えば話をするし冗談も言うし、表向きは何も変わらず過ごしている。
あの翌日でさえ、軽く挨拶をしてどうでも良い話をだらだらと駄弁ったくらいだ。
しかし愛花は和田の対人スイッチを切った姿にどうも元気の無さを感じてしまい、それにあの出来事が関わっているのではと心配していた。
できれば元気を取り戻したい、自分にそんな力は無いけれど…と愛花は密かに張り切る。
「お待たせしました、お疲れ様です」
「お疲れ…ちょっと違うとこ行ってみーひん?」
まばらな街灯だけの社員駐車場、和田は運転席の窓を下ろして愛花へ声を掛けた。
「そうしましょう、あ、決めます?」
「俺運転するから…店選ぼうや。乗って」
あの日の様に和田は愛花を助手席に乗せ、スマートフォンで食べ物屋を検索した。
「鍋系とか…寿司…焼肉…ラーメン…」
「ゆっくりできるとこがええなぁ…」
「あ、今の時期は新年会とか…」
「そうかー…皆さん街に出てはんねんな、」
「何か買って家で食べ……いや、」
これも誘い受けになってしまう、愛花はすぐに撤回してページをスクロールする。
「創作和食、とかどうでしょう」
「ええね、団体は来そうにない」
和田は明るい声を上げ、愛花と目が合えばニィと笑い歯を見せた。
「明日休みやんな、ゆっくり話そ」
「へ、は、い、」
これは…そういうこと?聞くのは野暮?愛花は頭の中で色んなことを考えるが、いずれにしても「良い」と思えたので流れに身を任せることにする。
「俺さ、清里所長がおそらく4月復帰やから…それ以降は吹竹さんとこうして食べに出たりも出来へんねんな…寂しいわ」
「あら、離れたって同盟は続きますよ、呼んでくだされば馳せ参じますとも!ふふ」
街の明かりを目で追いながら、愛花は鞄を腹に抱えて和田へ笑いかける。
「……たぶん俺は北店に戻って…前のポジションやろな、嘉島チーフはおそらく帰って来ぇへん…どっかで副店長しはると思う」
「ぇえ!はー…まぁそうか、管理職は色んなお店を回らなきゃいけませんもんね…」
「あれ、あんま…寂しがれへんね、マジで…マジでやで、メシ…食べに行こな、吹竹さん」
「行きますって、呼んでくだされば」
匂わせはみっともない、文字通りの意味しか取られないように愛花は気を付けた。
「あ、ここです」
「うぃ」
目当ての和食屋に着き、和田はバックモニターを見ずに直接目視で後方を確認しながら駐車スペースへ車を入れる。
「…吹竹さんはこういうの効くタイプ?」
そう言うと和田は腕を愛花の後方のヘッドレストを抱く様に回し、体を内へ向けた。
「あ、男のバック駐車ってやつですか…効きますね。大好物ですよ…」
横目で見た和田の顔は店の明かりで半面照らされ顔の陰影がくっきりとして…精悍で美しい。
大きく大きく舵を切って後輪が車止めにピタッと付き、座席の後ろへ回した腕をゆっくりと剥がし。
和田はその間愛花の顔から視線を外さなかった。
「………?」
「いや、思わせぶりな態度してみてんけど…どうもない?」
「ぇえ、私を口説いてらっしゃるんですか⁉︎」
「大概女性はキュンとしはるんやけどなぁ、吹竹さんには効かへんかぁ。……入れるか聞いてくるわ」
和田は否定も肯定もせずケラケラと笑い、シートベルトを外し降車する。
「え、あの、」
愛花は助手席で狐に摘まれた気持ちで悶々と考え込んでしまう。
これは俗に言う「いい雰囲気」なのか、それともいつものように漠然とした恋愛トークの一端だったのか。
キラースマイルに当てられた愛花はただドキドキと和田の帰りを待った。
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