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28・悠一side・on the bed
しおりを挟むくたびれた、まともな食事を摂っていない身体でエネルギーをセックスに全振りするなんて阿呆らしい…なのに俺はぱくぱくと香澄ちゃんを平らげてまたたんぱく質を放出して、彼女を潰さないようにベッドへ横たわった。
腰にひんやり当たるのは彼女が噴いた潮の跡で、どこまで染みているのかそれともこれくらいの水濡れはホテル側も想定内なのか、ぼんやり考えつつも事後の浮かれた頭にはどうでも良いことだ。
「香澄ちゃん…明日も仕事やんな」
「はい」
「ん…ほな帰らなあかんな…」
帰したくない、けれど自宅に招待するにはまだストーカー女の影がチラついてしまって、かつ人生最大に散らかっているので踏み込ませるのが恐い。
陽二からの報告次第ではまた安全な日々が戻って来るだろうが、計画が100パーセント成功するとは…残念ながら俺は弟をそこまで信じていないのだ。
「…あの、ナリさんは結局…うまくいったんでしょうか?」
「どやろ…電話してみよか」
香澄ちゃんとの時間を邪魔されたくないのだが功労者に礼くらい言うべきか、ならばと携帯電話の通話履歴を開いていると向こうから掛かってきた…ほらこういう以心伝心ぷりが双生児なのだ、香澄ちゃんは心底驚いている。
「…もしもし?」
『もしもし、兄ちゃん、終わったでー!書面交わして帰ってもうたよ、もう大丈夫やと思うわ』
「書面?」
『兄ちゃんに近付くなとか動画を流出させるなとか。兄ちゃんの写真も消させたよ…身分証も写真撮らせてもうたしな、なんかあれば真っ先に疑うでー言うて』
はて話し合いで解決すると言ったはず、まさか体で懐柔したとでもいうのか、嫌な予感がした。
「陽二、…何の動画や」
『ん?んー…そら、ナリくんが恋人とエチエチしとるとこよ、お宝動画』
「はぁ?お前鳴美にんなことさせたんか⁉︎」
『裸は映してへん、ま◯こは映ったやろうけど♡ひひっ…イテ』
鳴美とは陽二が同伴させた恋人で俺の昔馴染みでもある同級生、弟は電話の向こうでその彼女にしばかれているようだった。
自分のポルノを差し出して俺の安全を保障させるなんてネジの飛んだことをやってのけるその精神、こいつは根っから狂ってやがると俺は恩人に対して心で悪態をつく。
「お前は…クレイジーやな」
『ん、最高の褒め言葉やな』
「…悪かった…世話になった」
『ええよ、兄ちゃんも俺の威を借りたなんねんな、生まれて初めての優越感や』
「…せやな…昼にも言うたけど…俺はお前が羨ましいよ、好きなことを頑張っとる…思い切りと度胸が羨ましい」
『ひひっ……俺は…兄ちゃんの勤勉な所が羨ましいよ。俺の欲しいもんは全部先に手に入れよる…コイツだけは渡せへんけどな…なー、鳴美♡』
向こうではおっ始めているのか鳴美の子犬のような甲高い声が僅かに聴こえて、コイルが軋む音などが合間に挟まってきた。
ちなみにだが俺は同級生の鳴美になんら特別な感情は抱いたことがなくて、しかし小学生高学年くらいの時に彼女は俺の方に好意を抱いていたらしい。
それを察知した陽二が先んじて鳴美に猛アタックしてカップルになった、中学生の頃には既にセックスをして他の男を寄せ付けないよう囲っていた。
俺への対抗心と初恋が爆発しての行動だったのだろう、鳴美が弟とくっ付いたところで俺に痛手は無かったが、思春期において嫌に自信満々で上から目線の陽二の態度がひどく腹立たしかったことは憶えている。
「ふん…俺かて大切な存在ができたんじゃ…また顔は見せたるわ」
『なんで、デートしてんねやろ?ビデオ通話にしよ、見してぇな』
「んな機能付いてへんねん、あと裸やねん」
『なおさら見してぇや…なに、べっぴん?』
「ロリ巨乳や、羨ましいやろ…イテ」
最大の賞賛をしたつもりだったが香澄ちゃんはお気に召さず俺の背中をぺちんと叩き、むぅと頬を膨らませてまた俺好みの可愛い表情を見せた。
『ええね、鳴ちゃんはまだつるぺたやもん、それがええねんけどー…イテ』
「生粋のロリコンやなぁ、俺はロリと巨乳のええとこ取りよ…イテ」
仲良く一緒に遊んでいた頃のやり取りが思い出される、仲良くと言ってもマウントの取り合いばかりではあったが、それが楽しかったこともだんだんと思い出される。
相手の気持ちが分かるからこそ何をすれば自慢になるか悔しがらせることができるかを熟知しているのだ…鳴美に関しては当時は口惜しくはなかったけれど、後々考えると好みのビジュアルだなぁと思ったりもしたのは確かだ。
『あー、身内のエロ話聞いたら燃えてきたわ、鳴チャン…頑張ろ♡…ほなね、兄ちゃん…またな!』
「おう、気張れや」
『そっちもな』
「おう」
電話を切ると香澄ちゃんはもじもじと膝を捩ってしかし目を輝かせていて、
「…兄弟でエッチな話とかするんや…」
とはにかむ。
「若い時にせぇへんかったからな、電話やしできたわ」
「……ほんとにナリさんやった…うわー…すごーい」
「次…機会がありゃあちょっとくらい通話さしてあげるよ」
「ちょっと?」
「うん…妬いてまうから…」
陽二にどぎまぎする香澄ちゃんなど見たくない、
「アイツはたぶん香澄ちゃんの顔タイプやし」
と重ねると彼女は不思議そうな顔で俺を覗き込んだ。
「でも彼女さん…ナルミさん?にぞっこんなんでしょう?」
「いーや、好みのはずや。このくりくりしたどんぐり眼、小ぃこい口、短い手足…俺の好みはアイツの好みや…まぁ俺はこの顔にそぐわん乳と大人ぶった化粧と服装が好きやねんけど」
「…あんまり、お化粧せぇへん方が好きですか?」
「いや、子供が化粧と服装で背伸びしてる感じが好きやねん」
よくよく考えれば彼女以前にここまで好みが固まっていただろうか、もしかして俺の好みは彼女に会ってからの後付け設定だったのかな、だとしたら俺の好みは香澄ちゃん君だけだ…ハグをして、キスをして、顔を舐め回してメイクを剥がして、俺の愛情表現に引くその顔だってぞくぞくとそそる。
「歪んでるー」
「できるだけ接点は持たせたぁないね…香澄ちゃんは俺のや」
「……悠ちゃんのえっち」
「もっと呼んで、」
「悠ちゃん、悠ちゃん……、…」
とりあえず俺は明日も休みになったし香澄ちゃんは可愛いし、時計を気にする彼女をがしと掴んでベッドから降ろさず…朝まで繰り返し抱いた。
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