俺はこの顔で愛を釣る

茜琉ぴーたん

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14・悠一side・君が好きや

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 好みのタイプの女の子を連れて食事なんて、これほど楽しく誇らしいことが他にあるだろうか、まぁザラにあるだろうが俺においてはここ1番の幸福である。

 カウンターに並んで寿司を摘む、回転だがお高めなので香澄かすみちゃんは遠慮がちで、それでも皿の色を確認しながら手を伸ばす姿が可愛らしい。


「どんどん取って食いや」

「ちょっとずつで」

「ふーん……ワサビあかんの?かぁわいい」

「…ガキで…あきませんか?」

 敬語はよせと言って普通に喋り出したものの完全にタメ口にはできないようで、俺はそのギャップもまた良いなとニヤつきが止まらない。

「ええよ、俺も無い方が美味いと思うてる」

「甘党ですもんね」

「うん、わざわざワサビ剥がすようなことはせぇへんよ、無い方が美味い、ってだけやな」

「圧倒的に美味しいですよ」

 サーモン、マグロ、ねぎとろ、ぶり、彼女は濃厚な赤身・白身が好きなのだろう、箸で口へ運んだ時の恍惚の表情がとろけそうで堪らなかった。

 じいと見つめればはっと顔を背ける、数回繰り返すと彼女は少し慣れたのか、照れずにもぐもぐ顔を見せてくれるようになり俺も食が進む。


「香澄ちゃん、俺と付き合わへん?」

「だめ」

「なんでやの」

「信用できひん…最初のデートでき、キスしてくる男、信じられへんわ」

「ふーん、そう」

ならばどうして逃げもせずこうして寿司を摘んでいるのだろうね、少なからず好意は持たれているのだ、それが俺を過剰に傲慢ごうまんにさせた。

 しかして俺の切り札はこの外見しか、彼女の推しと同じというこの見た目しか無くて…それが無ければこんなデートもできてないのだから少々虚しさも滲む。

「まぁ…俺がナリの兄弟やなかったらできてへん縁やもんなぁ…仕方ないか」

「…兄弟というか…見た目がタイプやから…ネヤガワラ云々はあんまり関係あれへん…」

「そう?でもネヤガワラのグッズやないと香澄ちゃんを釣るネタが無かってんな、なんだかんだアイツを利用してんねん、情けない」

「……確かに、それが無ければ…私もホイホイ会いに来えへんかった」

「結果オーライ、にしたいけど…俺がカラッポやからしょうがないな」


 卑屈をり出して励まさせる、俺の良さとは何だろう?可愛がられる弟を羨んで妬んで、俺が優れている部分とは何だろう。

 アイツには長年交際している恋人が居る、俺にはそれも無い、仕事は安定しているけど芸能人ならすぐに年収も追い越されるだろう。

 君くらい、何も無い俺のものになってくれてもいいんじゃないの?控えめにとろサーモンを口に入れた彼女に寄り添い、

「香澄ちゃん、マジで…付き合うて欲しいねん」

と囁けば香澄ちゃんは咀嚼そしゃくを止めて箸を置いた。


「……成田さん、私のどこが好きなんですか?」

「…幼気な顔、仕草も可愛い。けどおっぱいデカいし成人してるしわきまえてる感じが良い」

「……んー…難しいな…見た目だけやったらスッパリ断れるんやけど」

「見た目から入る恋愛もアリと違う?」

 そこはお互い様だろう、むしろ外見がど真ん中なら多少の行き違いもいざこざも許せる気がする。

「でも成田さん、私の事、『好き』とは言わへんから…イマイチ信じられへん」

「へ?言うてるやん。見た目も性格も、て」

「違う、『好み』としか言うてへん。あくまでストライクゾーンに入ってるってだけやろ?なんや…能動的ちゃうねん、前も言いましたやん、『好き』になってくれる人やないと…付き合われへん」

「はー…」

なるほど付き合いの浅い仲でこの子は俺のオンリーワンにならねば一線を越えてくれないのか、それこそ傲慢で驕りだね、俺は体を離して緑茶をすすった。


 「能動的じゃない」はよく言ったもので、確かに俺は自ら恋愛を仕掛けに行くタイプではない。

 釣り糸を垂らして食いつくのを待つ、というかまともな恋愛はしてきてないように思う。

「……香澄ちゃん、俺な、キチンと恋愛してへんねん。しやからよう分からん」

「……」

「マッチングアプリでも引っかかるのを待つだけ、香澄ちゃんにもメアドあげて待つだけ、なんや…自信が無いんやろうな」

「……」

 だけれど君にはこんな話をして落としにかかっているよ、その特別感に釣られてはくれないか、男の弱みに母性本能をくすぐられてはくれないか。

「香澄ちゃんは仕事中の俺がええって言うたけどや、あれ演じてるだけやし素はこっちやし、俺は…薄っぺらいねんなぁ…」

「あの、仕事で演じるのは悪いことやないです。接客業の方が皆聖人君主とは思ってませんから…白衣の天使だって腹黒い方はおらはるし、医者やって患者さん選り好みしはるし、」

「ぷは」

やっぱり面白い良い子だな、実際に見てきたのだろう具体例が妙にツボにハマった。

「その…自信、というか…んー…な、成田さんの接客中の雰囲気、私好きです。執事みたいにピシッとしはって、せやけど人が見てないとこではダルっとしはってて、最初はその差が気になって…私はパソコンのことは分からへんけど、お父さんは『分かりやすい』言うて喜んでるし…んー…固定客掴んどくんも、才能いうか長所や思います、」


 あぁ眩しい、泣き落としであわよくばを狙っていたのにこんなに褒められると手を出し難いじゃないか。

 そして途中から俺も気付いていたよ、「なんで俺はこんなに君を釣ろうと必死なんだろう」と。

 ロリで巨乳で心の美しさも持っているのか最強だな、

「香澄ちゃん、好きや」

俺は板前に見られているというのに彼女の生臭い唇にキスをした。
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