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4・支配からの、解放

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 さて、あのホテルの一夜から半月ほどが経つが、セックスはしないものの俺と彼女は特にトラブルも無く交際を続けている。

 とはいえ抱きたい気持ちと性欲は存分にあるのだがいざと思うと手が出せない。

 文字通り手が出ないのだ。

 休みが合った日はドライブなどして甘酸っぱいデートを楽しんで、帰りの車内でキスをして彼女をマンションの前まで送り届けて終わり、実に誠実で模範的なお出かけを楽しんでいる。

 だが仕事中に関してはお察し、店内ですれ違う瞬間に目配せをしたり堂々と並んで話したり、人から見えない位置で手を繋いだりしている。


 でも公然猥褻わいせつで捕まりたくないので性的な接触はあれっきりだ。


 そして今日も仕事終わりに寄った個室の居酒屋で、彼女は俺の股間をストレス解消器具のようにもにもにと揉んで頬を膨らませている。

水蓮すいれん…満足した?」

「いいえ…もう半月も触らせて頂けない…可愛がって差し上げたいです…ダメですか?」

「ダメだ、公共の場で露出はいけない」

「せっかく潜る隙間がありますのに」

「用途を誤ってはいけない」

 俺たちが案内された席は4人掛けの掘りごたつタイプ、向かい合わせて座れば良いのに彼女は自然に俺の隣へ腰を降ろしぴったりくっ付いていた。

 扉は付いているものの卑猥ひわいなことをさせる気はない。

 スモークを貼った車の後部座席ならいざ知らずここは『人の場所』感が強くて、エッチなイタズラもする気が起きないしそもそもしてはいけない。

 なので彼女は物足りなそうにスラックスの上からペニスの感触を確かめては「気持ち良いですか?」「私の手で興奮しますか?」などとヒソヒソ尋ねていた。

「だから家にしようと申しましたのに…」

彼女はだし巻き玉子を箸で摘んで、「あーん」と俺の口へと運ぶ。

「…美味い……お家はまだ、…ね」

「はぁい…」

 奉仕をすることで、自分の存在を認められた気になるのだろうか。

 フェラチオなどさせてもらえないことで不安な彼女は、しきりに己の必要性を聞いては俺の好意が失せていないか確認したがる。

 俺としては手を出さないことで誠実さとか真剣さを伝えているつもりなのだがその辺りの認識に差があって…ラブラブなのに俺たちの間には妙な緊張感が漂っていた。


 肩をポンポンと叩けば彼女は安心したように「ふぅ」とため息をつき、股間は諦めて膝を指でくりくりといじり始める。

「仕事中の車の中は良くてプライベートはいけないって…矛盾してません?」

「そこは突っ込むなよ…俺だっておかしいとは思った。あの日は性欲に負けたんだ、情けない…だからもう車ではしてないだろ。大切に思ってるんだ、だからゆっくり進めたい」

「…早く…拓朗たくろうさんのものになりたい…」

「……気持ちは分かる」

布越しに触られてこんなにテント状に張っているんだから彼女だって分かっているはずだ。

 さっさと奪ってあげたい気持ちもある。

 けれどまた萎える姿を見せたくないんだ、それほどに痛そうで他人の支配をほのめかすあの乳首ピアスは高いハードルなのだ。


「…ピアスを…外しましょうか」

「…良いの?」

「ええ…」

彼女は体を起こし、おもむろにワイシャツのボタンを上から外しブラジャーとふくよかな谷間を披露する。

「ッ…ここでか?」

「はい、見て…下さいませんか?このピアスは私が買った物ですが…この穴を、解放する様を、どうか…お近くで、見て下さい」

「なに、ちょ…」

「静かにしていれば分かりませんわ、扉を開けられたとしても私の背中しか見えませんもの」

「そうだけど……わ、」

 そのピアスが諸悪の根源というか目に見えるかせなのだ。

 それが無ければ乳頭に空いた穴なんてきっと俺は気付かなかったし、平和的に初セックスを済ませていたに違いない。

 しかし外す意思はあると言ったのに彼女は「外してます」と申告しないものだから、ぼちぼち発言の真偽を怪しんではいた。
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