81 / 88
最終章・嫁が可愛いのでなんでもできる
66
しおりを挟む翌日。
守谷はソワソワしながら仕事をこなし、そのスマートフォンに着信が入ったのは昼の12時を回った頃だった。
「も、もしもし⁉︎オカン、」
『おぅ、今病院やねんけど、あんたが出勤した後くらいから陣痛が始まったらしいわ、間隔が狭なってるわ。今日中やと思うで…あんたも念くらい送っときや、ほなね、』
「いよいよか…」
11月だというのに多量の汗、守谷は呆気に取られる部下の目をよそに実務をこなす。
・
「ふ、副店長…顔色が悪いですけど…大丈夫ですか?」
バックヤードですれ違いかけた本日遅番のPCフロア長・小笠原奈々は、蒼白の守谷を思わず二度見して声をかけた。
「大丈夫や……いや、ナナちゃん…嫁さんが産気づいたらしくてな…落ち着かんねん」
「え、」
妊娠前から未来と親交を深めていた奈々は、その情報にも上司の青ざめ方にも驚いて目を丸くする。
そして
「行った方がいいですよ、店なら大丈夫です、平日だし半休だけでも…」
と早退することを勧めた。
「いや…今日オレ責任者やし…働け言われてるし…」
「立ち合いまでしなくても、駆けつけられるよう準備はしておいた方がいいですって……ミライさん、上の子の時に難産で辛かったって言ってましたもの…」
「うん…」
「差し出がましいようですけど…ぶ、無事に帰ってくる確率って100パーセントじゃないですからっ…」
実は自身も難産を経験した奈々は鬼気迫る表情で、守谷が後退りするところまで詰め寄る。
「う、ん…分かった、いや、でも行ったところで何もできひん」
「一緒に闘ってくれるだけで違いますって!ね、腰さすってあげて、送り出してあげるだけでも…副店長、」
「よ、よし…分かった。今日は締めは?ナナちゃんか、金庫は?」
腹を括った守谷は業務端末のガラケーと店の鍵束、そして引き継ぎノートを奈々へごそっと渡した。
「吹竹さんです。取次も予算も把握してますわ、何かあれば連絡します」
「おし、分かった!後で有給申請出すわ、」
そしてトランシーバーのマイクをオンにして、
『すまん、嫁が産気づいたから行ってくるわ!みんな後よろしくな!ほな!』
と無線を入れる。
『行ってらっしゃい!』
『了解です』
『ミライさんによろしく!』
部下達は口々に応答し、快く守谷を送り出してくれた。
「行ってらっしゃい、タイムカード打刻しておきます!」
「おおきに、ナナちゃん!ほな!」
守谷はトランシーバーの電源を切り事務所のデスクに投げ置いて、上着を掴んで駐車場まで駆け下りる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
110
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる