嫁が可愛いので今夜は寝ない

あかね

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最終章・嫁が可愛いのでなんでもできる

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 翌日。

 守谷もりやはソワソワしながら仕事をこなし、そのスマートフォンに着信が入ったのは昼の12時を回った頃だった。

「も、もしもし⁉︎オカン、」

『おぅ、今病院やねんけど、あんたが出勤した後くらいから陣痛が始まったらしいわ、間隔が狭なってるわ。今日中やと思うで…あんたも念くらい送っときや、ほなね、』

「いよいよか…」

11月だというのに多量の汗、守谷は呆気に取られる部下の目をよそに実務をこなす。





「ふ、副店長…顔色が悪いですけど…大丈夫ですか?」

バックヤードですれ違いかけた本日遅番のPCフロア長・小笠原おがさわら奈々ななは、蒼白の守谷を思わず二度見して声をかけた。

「大丈夫や……いや、ナナちゃん…嫁さんが産気づいたらしくてな…落ち着かんねん」

「え、」

妊娠前から未来みらいと親交を深めていた奈々は、その情報にも上司の青ざめ方にも驚いて目を丸くする。

 そして

「行った方がいいですよ、店なら大丈夫です、平日だし半休だけでも…」

と早退することを勧めた。

「いや…今日オレ責任者やし…働け言われてるし…」

「立ち合いまでしなくても、駆けつけられるよう準備はしておいた方がいいですって……ミライさん、上の子の時に難産で辛かったって言ってましたもの…」

「うん…」

「差し出がましいようですけど…ぶ、無事に帰ってくる確率って100パーセントじゃないですからっ…」

実は自身も難産を経験した奈々は鬼気迫る表情で、守谷が後退ずさりするところまで詰め寄る。

「う、ん…分かった、いや、でも行ったところで何もできひん」

「一緒に闘ってくれるだけで違いますって!ね、腰さすってあげて、送り出してあげるだけでも…副店長、」

「よ、よし…分かった。今日は締めは?ナナちゃんか、金庫は?」

腹を括った守谷は業務端末のガラケーと店の鍵束、そして引き継ぎノートを奈々へごそっと渡した。

吹竹ふきたけさんです。取次も予算も把握してますわ、何かあれば連絡します」

「おし、分かった!後で有給申請出すわ、」


 そしてトランシーバーのマイクをオンにして、

『すまん、嫁が産気づいたから行ってくるわ!みんな後よろしくな!ほな!』

と無線を入れる。

『行ってらっしゃい!』

『了解です』

『ミライさんによろしく!』

部下達は口々に応答し、快く守谷を送り出してくれた。

「行ってらっしゃい、タイムカード打刻しておきます!」

「おおきに、ナナちゃん!ほな!」


 守谷はトランシーバーの電源を切り事務所のデスクに投げ置いて、上着を掴んで駐車場まで駆け下りる。
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