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最終章・嫁が可愛いのでなんでもできる

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 そして現在。

「懐かしいな…検査薬持って飛び回る大人、初めて見たから。しかも2回も」

「嬉しかってんもん…すまん」

大きく膨れた妻の腹を撫でて、守谷はバツが悪そうに壁へ目を逸らした。


 もうじき出産予定日、夕方ごろから認知した違和感は次第に大きくなり、先程からじわじわと生理のような微細な鈍痛どんつうを子宮口の辺りに感じてきている。

「たぶん明日か…これから陣痛がつくかも…この数日には生まれてるよ」

「ん…準備はできてるし…その…」

「ええよ、仕事わざわざ休んでくれんでも大丈夫やから。お母さんに運転してもらうし」

最初から立ち会いなどは求めていない未来は、シフト通りの休みで動いて欲しいと当初から夫へお願いしていた。

「すまん、明後日は休みやから…もし産気づいたらすぐ、すぐ行くから…」

「ええって、もう…ふふ、楽しみにしとって、娘のパパになんねんで、」

「ミラちゃんに似て可愛いやろなぁ、嫁にやりたないなぁ」

「早いわ、ふふっ」

 二人は暗がりで顔を見合わせて静かに微笑み合い、口付けを交わす。


「娘やったら、ハルくん嫌われたりするんやろか。思春期なんか…」

 話の途中で未来は固まり、

「ん?ミラちゃん?」

と声をかけた守谷の腕をガシと掴んだ。

「…ハルくん、お母さん呼んで、破水や、」

「へ、あ、わ、」

 じんわりとベッドシーツに染みる水気、気付けば守谷のパジャマにも染み伝ってきていた。

「病院電話するから…平気やで、お母さんに声かけて、たぶん入院なるから」

「お、おう……オカン、オカーン‼︎」

守谷は慌てて1階の母の寝室まで呼びに行き、ブルーシートやタオルを準備して駐車場までの動線を確保する。


「ミラちゃん、エンジンかけたから…いつでも行けんぞ!」

「よっしゃ、すぐ来てって、入院や。……お母さん、いっくんのことお願いします」

「ええよ、ミラちゃん。気張ってき、明日行くからな」

 未来は守谷の母に息子を任せて、夫の運転で病院へと向かった。





「い、痛いか?」

「いや…全然…ナントカ破水ってやつやろか…体験談は読んでんねんけどな…忘れたな」

心拍数は上がっているものの未来は落ち着いて、自分の車の後部座席から見る景色を新鮮な気持ちで眺めている。

「な、なんでそない冷静やの…中の…赤ん坊は無事なんやろか…」

「羊水減ってもうたからね…診てもらわななんとも…」

「は…て、帝王切開とかになるやろか…はー…」

「ハルくんは落ち着きや、」

未来は「ふふ」と呼吸を整えながら笑い、力を抜いてこれからのことを考えた。

 名前はもう決めてあるがしっくりくるだろうか、うまく母乳が出てくれるだろうか、夜間だから割増料金になったりするだろうか。

 今悩んだところでどうにもならないな、どれもこれもそうして簡単に片付ける。

「ミラちゃん、着いた……降りよ、歩けるか?」

「大丈夫…」


 よろよろと夫の肩を借りて未来は玄関口まで歩き、夜間入口のチャイムを鳴らして電気錠を開けてもらい指示通りにロビーを進んだ。
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