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最終章・嫁が可愛いのでなんでもできる
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しおりを挟む7年前。
寝室のスタンドライトの明かりの下で、幼い妻は読んでいた本を閉じ、勉強を終えてベッドに入ってきた夫へ尋ねる。
「なぁハルくん…次…いつ…ホテル…行く?」
「ん?なんや珍しい…んー…いつでも行きたいけど…ミラちゃんはいつが都合がええ?」
夫が聞いているのは時間的な都合ではなく体の都合である。
未来が20歳になり、夫婦間にはどちらからともなくほんのりとセックスの次の段階…子作りの空気が漂い始めていた。
「あの…は、ハルくん、水曜くらいな、その…あの…」
「なにぃ?」
「あの、あ…笑ろてるやんか、もうええわ」
若い妻は顔を真っ赤にして、枕元のライトを消してしまう。
暗がりの中にエアコンと扇風機の駆動音が鳴るだけで、妻の腰を絡めとる夫の腕が僅かにベッドを軋ませ、その音がやけに響いた。
「教えて、ミラちゃん…なんの日?」
ちゅっちゅと紅潮した顔に唇を当てればそこは温かく、怯えたように震えている。
「あ、くすぐったい…あ、ハルくん、」
「ん、教えて、て」
「はッ…あ、赤ちゃん……あの、」
排卵日、と言いたかった未来は間違ってはいないが求めることの結果の方から先に言ってしまった。
「うん…赤ちゃん?」
「あの…分かってるくせに……意地悪やな…」
「分からへん、教えて」
スキンシップは最小限、しかし自分からホテルへ誘う妻の姿を見たとあれば守谷は簡単に寝られはしない。
「で、できやすい日…やねん…その…そろそろ、子供…作らなあかんかなって…思うてて…」
「作らなあかんことはないよ、そうか……結婚して2年過ぎたもんな…オレもなんとなく考えてたけど…ミラちゃんは…今欲しいん?」
「いや…授かりものやから…うち…ええ親になれるかも自信無いしな、その…でも、お母さんとハルくんがおれば、うちの子でもええ子に育つと思うねん」
懸念材料は自身の親…妻へのDVを隠しもしなかった父と、自分を置いて逃げた母。
未来は自身のことを割と淡々として穏やかな人間だと思っているが、非行に走った前科もあるし我が子に手を上げる可能性が全くゼロとは言い切れない。
「…ミラちゃんが親になんねんで、不安なら急がんでもええし。なんなら作らんでもええんやから」
守谷は弄っていた手で妻の頭をぎゅうと抱き、少し髭が伸びた顎をすりすりと擦り付けた。
「それは…嫌や。うち…ハルくんをパパにしてあげたいもん…」
「ミラちゃん…それやったら、オレもミラちゃんをママにしてあげたいよ。一緒に…初めての事やからちゃんと調べてな、親になろう。せやな、とりあえず…避妊すんのやめてみよか…」
「自然に任せるってこと?」
「うん。意気込むんやなくて、自然にな。…ミラちゃん、もし上手くいったら…オレの子…産んでくれる?」
目元に触れた喉仏が振動し、頭に直に語りかけて来るようで…未来はクラリとなりながら
「う、うん…」
と応える。
「あんまり意識せんとって、愛してるよ、ミラちゃん♡」
守谷は抱擁をやめて、未来の頬を撫でてから体を離し、きちんと仰向けになって就寝した。
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