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2月・嫁が可愛いので激務も乗り越えられる
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しおりを挟む時刻は夜の9時半過ぎ、とりあえず見知った道を東へ、自身の職場を目指して自転車を走らせる。
国道に沿って真っ直ぐに、駅ビルや市庁舎は明かりが落ちて空の星が綺麗に見えた。
今年は暖冬、吐く息は白いがそれほど寒くもない、そして夫の上着と冷え対策の靴下がしっかりと仕事をしてくれている。
結婚前もこの道を通って本店に通い、夕方になったら高校へ向かい、自宅に着く頃は当然外は今くらい真っ暗だった。
「休みの日は…玄関前で待ってくれてたり…したな…」
もう大人なのだからそこまでは期待しないが、一方でこんな徘徊をしてしまって、構ってちゃんな自分のどこが大人なのだと自分でツッコミを入れたりする。
「ハルくん…ガッカリしてんやろな…シたいんやろな…」
秋までは数年のセックスレスだったのに、週1ペースが普通になればひと月ご無沙汰になるだけでもショックは大きいのだろう。
気付かれたくない、でも心配して探して欲しい、未来はどうしたもんかと緩い下り傾斜を風を切り走った。
しばらく走ってムラタの駐車場へ着けば、本日の金庫担当のスタッフと管理職が店舗の裏口から出て施錠しているところであった。
「あ…小笠原フロア長や…」
見つかりたくないな、未来は建物の影に身を潜めて車が1台出て行くのを確認、従業員駐車場からは見えない客用駐車場に自転車を停めてしゃがみ込んだ。
自分は何をしているんだろう、夫は今頃風呂に入っているだろうか、今夜もあのDVDを観るのだろうか、自分が居ないと分かったらどうするだろうか。
未来はそこまで考えて、はっとスマートフォンを置いて来てしまったことに気付く。
「あ、…おらんからって通報されたらヤバいやん…お母さんに話されたら理由まで言わな…またハルくんが怒られてまう……あ、帰らな…」
家出は中止、近所や警察にまで迷惑をかけるほど事態を大きくしたくはない。
ワタワタと未来が慌てていると重厚なディーゼルエンジンの音が動き始め、車が社員駐車場からこちらへ向かってくるのが分かった。
「え………」
国道側の入り口に進入防止のチェーンを掛ける為か、これはおそらく管理職の…奈々の車の音だろう。
今一番会いたくない相手に見つかるわけにはいかない、しかし逃げる場所も無く…未来は建物に貼り付いて身を潜め、地面を伝う車のライトの動きを目で追った。
「……」
徐行で姿を見せた車…外の県道の街灯に照らされぼんやり浮かんだ色は赤。
見覚えのある大きなSUVは無人の客用駐車場を少し進んで、未来の前を通り過ぎてからピタと止まる。
そして運転席の窓が開き、
「そこ、誰か居るの?」
と聞き覚えのある声が飛んできた。
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