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2月・嫁が可愛いので激務も乗り越えられる
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しおりを挟む週末、金曜日。
未来は仕事から帰っていそいそとトイレへ入り、用意していた妊娠検査薬に小水を掛ける。
来週まで待つつもりだったが生理前独特の下腹部の怠さと少々のおりものがあり、どうせならと調べてしまうことにしたのだ。
「どないやろ…」
結果が出るまで目を閉じてしばし待ち目を開けて確認するも、赤線が浮かぶはずの窓は水分で滲んだだけで…終了ラインだけが濃い赤色に染まっていた。
「は…?してへん…の…?………あ、」
立ち上がろうと股を拭ったトイレットペーパーには濁った茶色が付き、尿しか落としてないはずの便器の中もインクを垂らしたように赤黒い塊が揺蕩っている。
「うわ、あ、あ……」
たまに起こる生理不順か、未来は中腰で戸棚から生理用品を取り出して下着へ貼り付けた。
「なんや…またか……痛いな……」
血を見た瞬間からズンと腰は重くなり、淡い期待と涙が経血に紛れて流れて行く。
・
「ただいまー」
「おかえり、おつかれさま」
「はぁ……疲れた…だるい…ん、ミラちゃん、」
その夜、守谷は帰るなりリビングのソファーへどかっと座り、妻へ手招きして細い体を膝へ乗せる。
「ミラちゃん…先週はごめんな、今夜はできる?抱いてええ?」
「あー、ごめん、できひん…」
未来は腰に回された腕を撫でて宥め、目線を合わせずに答えた。
「ん、どしてん?調子悪いか?」
「ごめん…あの…生理で…」
「あれ、そんな時期やった?」
「ズレてたみたいで…うん…」
「そうかぁ…お腹しんどいな、そうか……ん、分かった。ほな飯食うて、ちょっと勉強するわ」
セックスができなければ勉強か、近況を話したり夫婦の時間を取るよりもそれが重要なのか、未来は夫の膝から降りて髪を整えた。
「頑張って…」
「うんー……残念やなぁ」
「……!…」
あからさまにガッカリしている、その気持ちも分からないでもないが、ふと自身の父親が脳裏に浮かんでしまい背筋を震わせた。
未来の父は夜毎に性欲だけでなく日頃の鬱憤をぶつけては荒く妻を抱いていた。
十数年経っても解けない呪縛は彼女を苦しめ、最愛の夫と父を重ねてしまった事への嫌悪感と罪悪感に苛まれる。
「ミラ?どしてん…大丈夫か?」
「ん、ごめん…できんくて…ごめんな、ん……寝るわ…」
疲れた顔、イラついた目、貪るようなあの手つき。
夫はいずれ父の様になる?セックス用の器の様に扱われる?もし妊娠してセックスができなくなれば…他で性処理をして帰る?街の店か、ナンパか、それとも会社の手頃な女性か。
ホルモンバランスのせいか普段は考えもしないような妄想が捗る、未来は震えながら階段を上がった。
「あかん…」
妊娠もしてない、腹は痛い、夫の要求に応えてあげられない。
ふと夫の書斎を覗けば研修で使ったであろう資料と冊子が机に積まれ、テレビ台の扉からはお気に入りのAVのパッケージが覗いている。
夫が「ミラちゃんに似てるから」とヘビロテしているそのディスク、昨夜もお世話になったのだろうか。
合宿で仕方ないとはいえ半月以上も我慢させてしまっているのが辛かった。
「……」
鬱々とした気分、腹と腰の鈍痛、未来はそこにあった夫のジャンパーを掴んで階段を降り、静かに裏の勝手口から外へ出る。
衝動的とはいえ忍んでのこの脱走、夫はベッドに自分の姿が見えないと探してくれるだろうか、勉強をしてからだろうから日付が変わる頃だろうか。
未来はパジャマの上にジャンパーを羽織り自転車で通りへ出た。
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