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12月・嫁が可愛いのでどんな夜も燃える
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しおりを挟む未来は元々セックスが好きではないのだが、それは実家・中井家の家長で彼女の数々のトラウマの根源…父親の影響である。
妻に対する暴力には性的なものも含まれており、幼い未来への配慮無く夜な夜な隣の布団で嗜虐的な行為が繰り広げられていたそうだ。
当然未来は夫婦間のセックスにいいイメージは持っていなかった。
ドラマや映画などで描かれる恋人同士のものはなんとなく観れる、しかしそれがこと夫婦の営みとなると父親を思い出していけない。
隣人だった守谷親子もなんとなくその事は知っていたし、決して同衾を焦らせるつもりも無く、ましてや子作りなど遠い先の話だと思っていた。
・
8年前新婚当初。
未来の18歳の誕生日に無事入籍した二人だが、彼女の気持ちに寄り添い、夫妻はその後も寝室は別のまま数ヶ月過ごすこととなる。
実際にはそんな込み入った事を話せるほど打ち解けてなかったというのが正確なところで、未来の方は割と早いうちから守谷を受け入れる覚悟はしていたのだという。
なんせ物心ついた頃からの初恋の相手である。
さらに保護者であり恩人であり家族…気持ちを通したい、報いたい、未来の新婚生活はモヤモヤと過ぎて行く。
結婚してすぐに守谷はフロア長として未来の店舗へ栄転が決まり喜んだものの、管理職研修合宿やセミナー、各種勉強会で多忙を極めていった。
少しでも夫婦の時間を、それが無理でもせめて体を休める時間を取りたい、と入籍から5ヶ月経った10月、やっと新婚旅行に出かけたのだった。
・
「シよう、ハルくん。夫婦らしいことしとかな」
守谷たっての希望の国内温泉旅行の1泊目。
夕食も済み、既に大浴場で入浴してきた浴衣姿の夫に、同じく浴衣の未来が関係を…つまり「抱け」と迫っていた。
「…ミラちゃん、その…焦っても良くないしな…疲れてるやろ、休もうや…」
足元の間接照明が妖しくオレンジに灯り、狩りをする獣のようにじりじりと守谷を壁際へ追い込む。
「結婚したのに、なんも…してあげてへんし…夫婦やから…せな…ハルくんのこと好きやし」
「いや…そんな使命感で言うてんなら、オレはせんよ。ミラちゃん嫌なこと思い出したりするやろ、そういうのが薄れてから、夫婦の絆が出来てからでもええやんか…ミラちゃん。ゆっくりな、ゆっくりしよう…」
守谷は決してシたくないわけではないのだが、嫌な思いをさせて泣かれでもしたら二度と手を出せない。
「ハルくん、うちのこと避けてへん?ろくすっぽ深い会話もしてへん」
「忙しいからよ、仕事が落ち着いたらちゃんと…」
そんな煮え切らない夫に対して嫁は舌打ちし、
「チッ…デカいくせにビビってんのか?」
とケンカを売るように見上げてから煽る。
「……………あぁ?」
可愛い嫁からの思わぬ言葉に、守谷の額に青筋が入った。
守谷とてそれなりに色事の場数は踏んでいるし、未来程ではないが親に隠れてヤンチャを嗜んだこともあるのだ。
「嫁がシよう言うてんのに、恥かかしなや。タマ付いてへんの?」
彼女が尖っていた頃に意味も分からず覚えたであろう、男性への侮辱の言葉を吐く。
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