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11月・嫁が可愛いので喧嘩も利用する
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しおりを挟むその夜守谷が22時過ぎに帰宅すると、息子はもう母の部屋へ入ってしまっていた。
未来がひとり、疲れた夫を出迎える。
「…おかえり」
「ただいま」
金曜日はおばあちゃんとTVの映画番組を夜更かしして観るのが息子の週1の贅沢であり、娯楽になっている。
ひと月前に始めたこの制度のおかげで未来は寝かしつけから解放されて、家事やひとりの時間を持てるようになっていた。
「ごはん温めるね」
夫婦の営みが復活したという良いこともあり、遅くに帰ってくる守谷の夕食に同席できるのも嬉しく、金曜日は夫婦にとっても週1のご褒美のような日なのである。
「…ミラ、ちょっとここ座れ」
「…はい」
「今朝のことやけど…なにがそない嫌やった?言うてくれな分からん」
ネクタイを緩めながら守谷は嫁を食卓につかせ、アイスの件の説明を求めた。
「ん……4個あるんやから…皆で分けたかってん」
「いや、2人しか食わへんのはお前も知ってるやん、4人で食うもんは4個買うけどや。2人しか食わへんからオレは2つ買うたんや」
「…1個ずつ、家族やったら分けたいやん…4つあんのに何も言わんと食べて欲しくなかっただけや…」
「…?食わへん人にも、食べるか聞けば良かったんか?」
そうだ、とばかりに未来は黙って頷く。
「…分からん、ミラ、説明してくれ」
「……同じ物を均等に分け合うんが家族やろ…?アイスやのうてなんでも…ひとりだけ食べるとか、そんなん嫌やねん…うちは、分け合うもんは分けてるし、誰かだけ無いとかそんな買い物はせぇへんの。家族は…」
家族、家族と涙を浮かべ繰り返す嫁の真意を悟り、守谷はゆらりと立ち上がって未来のイスの横に跪いた。
「…昔のことか…悪かった」
「ううん…説明せんと怒ってごめんなさい…」
細い首を横に振ると、それに合わせて涙の粒が膝へ落ちる。
「いや、せやな、確かに、皆で食べたいわな」
守谷はそのまま妻の細い腿へ頭を下ろし、腰を抱いた。
彼女は、食材やお菓子は必ず過不足ない個数の商品を選んでくる。
4個入り・8個入り、家族で割り切れる個数のものだ。
息子が幼児食の間は我慢していたが、食事の幅が広がった今は量は違えど皆で同じ物を食べるようにしている。
単身赴任中からそうだったらしいが、台所に入らないし買い物にも同行しないので守谷は気が付かなかった。
「この前のホテルでも…ルームサービスのたこ焼き『持って帰れんか』て言うてたな、とんちんかんな事言う思たけど…」
「うん…うちらだけ食べるんは罪悪感というか…抵抗あんねん…」
しょんぼりと首を垂れる未来、彼女がここまで家族に拘る理由はその生い立ちにある。
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