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最終章・嫁が可愛いのでなんでもできる
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しおりを挟む妻が分娩準備室へ入ってしばらく、廊下の長椅子で待つ守谷へ看護師が声を掛ける。
「旦那さん、このまま入院になりますから荷物をこちらの病室へお願いします」
「へ、あ、はいはい…」
分娩室のすぐ向かいの部屋へ鞄を置き、少し待っているとピンクの分娩着に着替えた未来が自力で歩いて入ってきた。
「ミラちゃん!大丈夫か⁉︎……ぁ」
叫んだ後で声が大きかったと気付き、守谷は口を噤み妻をリクライニングベッドへ乗せる手助けをする。
「大丈夫や…まだ陣痛がついてへんから…誘発剤打って待つらしいわ…すぐは産まれへん……もう帰ってええよ、明日も仕事やし」
「わ、分かった…何かあったらすぐ連絡せぇよ、な、ミラちゃん…あ、これだけ、」
男は顔を傾けて労るようにキスをして、体を離したその時に点滴スタンドを持った看護師が開いていた扉をコンコンとノックした。
「失礼しますねー、守谷さん、長期戦になるからね、頑張りましょうね、」
「はい…ほな、ハルくん…ありがとうね、気をつけて帰って……おやすみ、」
「うん…おやすみ…」
守谷は注射に怯える妻の顔を名残惜しそうに見つめ、暗い階段を降りて駐車場から病室を見上げて天に祈る。
「チビちゃん…頼むで、あんまりうちの嫁さんを苦しませんとってくれよ…スッと出て来いよ…オレ、可愛がったるからや…」
自身の腹をさすりながら守谷は車へ乗り込み、来た道をひとり自宅まで帰った。
・
自宅へ着くと、母は居間のソファーに掛けてうとうとと舟を漕いでいたので、守谷は静かに声をかけて肩を揺すった。
「オカン……ただいま、すまんな、」
「あ、おかえり…どやった?ミラちゃん、まだかかるやろか?」
「んー…誘発剤?打つ言うてた……オカン、明日…頼むわ、抜けれたらオレも行きたいねんけど…うん…」
「ええよ、管理職やねんから簡単に店抜けられんやろ。しっかり稼いで来な、それが男の仕事やから…ベッドはタオル敷いてあんで。明日乾燥機かけるから…ん、…おやすみ、」
母は立ち上がって、泣きそうな息子の背中をぺしんと叩き寝室へ下がっていく。
「おやすみ…」
ひとり寝が怖い子供のように、守谷は心細さと不安に動悸がして…寝室へ入ると破水で濡れた部分を避けて、息子にぴったりくっ付いて眠った。
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