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2月・嫁が可愛いので激務も乗り越えられる
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しおりを挟む「適当に座って、すぐ暖まるからね、お茶、お茶…」
市の外れの地区にある奈々の社宅アパートに着き部屋に入ると、彼女はまず電気ケトルに水を入れて沸かし始める。
「はい、お邪魔します…あ」
椅子に座ろうとした未来は経血が流れ出る感覚に一瞬動きを止め、そういえばと腰を下ろすのを躊躇った。
「ん?どうかした?」
「すみません、フロア長……あの、お手洗いと……その……せ、生理用品……貸していただけますか…?」
軽率な家出の代償、寝る前に取り替えようと思っていたナプキンは自転車移動という予想外の運動で昼間並みに膨れ、許容量をオーバーしようとしていたのだ。
「いいわよ、おいで……ここトイレね、その棚に何種類かあるから好きに使って、」
「すみません…」
「いいのよ、スマホ持ってないくらいだから用意無いでしょ、汚れる前で良かったじゃない、さ、どーぞ」
まるで保健室の先生のよう、未来は有り難くナプキンを使わせてもらいリビングへ戻った。
「ありがとうございます…」
「いいってば……生理、重い方?」
「そうですね…今は薬でなんとか…」
「そう…私、少ない日は布ナプキン使ってるんだけどね、気持ちいいわよ、軽くなる人もいるみたい。そういうのに頼るのもいいかもね」
トイレに篭っている間に奈々はラフなニットとユルいパンツに着替えていて、その股をポンと叩くものだから未来もつい釣られてそこを注視してしまう。
「へぇ…話には聞いたことありますけど…今度調べてみます」
実の母親ともついぞ話す機会が無かった生理の話、未来は妙な気分でフムフムと頷いた。
「うん…守谷さん、しっかりしてる感じだけど調子崩してる?身体冷やしちゃダメよ、まだ子供産んだりするんだから…」
「!…それは…分かんないです…」
「そう?チーフ言ってたわよ、この前の集まりの時に。奥さんがとにかく可愛いって…2人目も考えてるから仕事頑張るんだって…はい、これ飲んで」
「へぇ…か、可愛いか……あ、ありがとうございます…」
未来は促されるままに食卓へ着いて飲み物をいただく。
「お茶」と言って急須を出していたのに未来へ出てきたのはココアだった。
体調に配慮してくれたのか、奈々もココアを啜りながらまたニッコリと笑った。
「さて、私はご飯するから、好きに過ごしててね。……守谷さんも何か食べる?」
「いえ、もう食べてます」
「よね、ん。…仕事と家事で疲れるでしょう?料理が上手って聞いてるわ。お子さんとお義母さんも同居ならズボラ飯ってわけにもいかないわよね、しっかり作ってるんでしょう?私も出来る限り頑張ったけど、幼児食とか離乳食って手間かかるわよね…もう解放されたから夕飯は適当よ、」
キッチンに立つ奈々は炊飯器から白米を盛って台に置き、冷蔵庫の上段から瓶や保存容器が詰まったプラスチック製のカゴを持って向かいに座る。
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