65 / 87
2月・嫁が可愛いので激務も乗り越えられる
51
しおりを挟む「適当に座って、すぐ暖まるからね、お茶、お茶…」
市の外れの地区にある奈々の社宅アパートに着き部屋に入ると、彼女はまず電気ケトルに水を入れて沸かし始める。
「はい、お邪魔します…あ」
椅子に座ろうとした未来は経血が流れ出る感覚に一瞬動きを止め、そういえばと腰を下ろすのを躊躇った。
「ん?どうかした?」
「すみません、フロア長……あの、お手洗いと……その……せ、生理用品……貸していただけますか…?」
軽率な家出の代償、寝る前に取り替えようと思っていたナプキンは自転車移動という予想外の運動で昼間並みに膨れ、許容量をオーバーしようとしていたのだ。
「いいわよ、おいで……ここトイレね、その棚に何種類かあるから好きに使って、」
「すみません…」
「いいのよ、スマホ持ってないくらいだから用意無いでしょ、汚れる前で良かったじゃない、さ、どーぞ」
まるで保健室の先生のよう、未来は有り難くナプキンを使わせてもらいリビングへ戻った。
「ありがとうございます…」
「いいってば……生理、重い方?」
「そうですね…今は薬でなんとか…」
「そう…私、少ない日は布ナプキン使ってるんだけどね、気持ちいいわよ、軽くなる人もいるみたい。そういうのに頼るのもいいかもね」
トイレに篭っている間に奈々はラフなニットとユルいパンツに着替えていて、その股をポンと叩くものだから未来もつい釣られてそこを注視してしまう。
「へぇ…話には聞いたことありますけど…今度調べてみます」
実の母親ともついぞ話す機会が無かった生理の話、未来は妙な気分でフムフムと頷いた。
「うん…守谷さん、しっかりしてる感じだけど調子崩してる?身体冷やしちゃダメよ、まだ子供産んだりするんだから…」
「!…それは…分かんないです…」
「そう?チーフ言ってたわよ、この前の集まりの時に。奥さんがとにかく可愛いって…2人目も考えてるから仕事頑張るんだって…はい、これ飲んで」
「へぇ…か、可愛いか……あ、ありがとうございます…」
未来は促されるままに食卓へ着いて飲み物をいただく。
「お茶」と言って急須を出していたのに未来へ出てきたのはココアだった。
体調に配慮してくれたのか、奈々もココアを啜りながらまたニッコリと笑った。
「さて、私はご飯するから、好きに過ごしててね。……守谷さんも何か食べる?」
「いえ、もう食べてます」
「よね、ん。…仕事と家事で疲れるでしょう?料理が上手って聞いてるわ。お子さんとお義母さんも同居ならズボラ飯ってわけにもいかないわよね、しっかり作ってるんでしょう?私も出来る限り頑張ったけど、幼児食とか離乳食って手間かかるわよね…もう解放されたから夕飯は適当よ、」
キッチンに立つ奈々は炊飯器から白米を盛って台に置き、冷蔵庫の上段から瓶や保存容器が詰まったプラスチック製のカゴを持って向かいに座る。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる