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11月・おまけ
守谷のプロポーズ・3
しおりを挟むこの人は亭主関白を気取るだろうか。
元々の性格は知っているが、それが行きすぎた暴君になったりはしないだろうか。
例えば心に深く根付いて離れない実父の様に。
1年前は守谷から結婚の気持ちがあることを聞かされてただ嬉しく喜んだ未来だったが、当然だがこの間に彼女は少し大人になっていた。
初恋の相手と大人になって再会して冷めてしまうのはよくある話、完全無欠な存在・「ハルくん」にも未来はほんのりとその可能性を感じ、しばし無言で固まってしまう。
「え、ミラちゃん…?」
「……あ、ごめんなさい、あの…」
「こ、断ってもええねんで、その…ミラちゃん若いねんから、早くから人生決めてかかることもあれへん…うん、」
てっきり手放しで喜んでもらえると思っていた守谷は一旦箱に蓋をして着席した。
「ちゃうねん、その…あの、ぼ、暴力とかせぇへんよね?」
「するかいな……あ、父ちゃんみたいにならんかってことか…一緒にすなよ」
「ハルくんは年上やし男らしいとこが好きやねんけど…その…言葉とか乱暴になったりしたら恐いねん…」
「ならへん…とも限らんか…口が悪いのは気を付けて治すようにするわ。仕事の愚痴は家には持ち込まへんし、物に当たったりもせぇへん。イラついたら外で解消して帰る、これならどうや?」
「解消って、う、浮気とかはあかんよ、外に女の人作ったらあかん、」
「当たり前やんか!嫁さんに操を立てる、そんなん言われんでも…なんやのオカン」
侃侃諤諤と意見を交わす二人の様子を、守谷母はニマニマと見つめていたが飽きたのかまたおかずを摘み出す。
「いや、ラブラブやんなぁ、ご両人♡ええよ、マリッジブルーはとことん話し合って解決しや、私は食べんで」
「あ、オレも…腹減ってんねん…ミラちゃんも食べや、オカンのカニ玉は美味いねん」
「レトルトやからな、ははは!」
「ふふっ!」
涙目になっていた未来は吹き出して箸を取り、守谷母子の会話に混じりつつ少しずつご飯を口へ運んだ。
・
あらかた食べ終えたところで未来は守谷へ向き直り、口を開いた。
「ハルくん、さっきは途中になってごめんなさい。うちハルくんが初恋で今までずっと好きやって、ちょっとフィルター掛かってた部分もあってな、美化しすぎやったと思うんよ」
「へあ?」
「一緒におってだらしないとことか気になることも色々出てきてな、魔法が解けたというか…なんでも全部完璧な人やないって思えてきたんよ」
「ええ?え?オレ振られんの?」
守谷は未来から隣の母へ視線を移すも、母は目を遠く天井へと飛ばしていた。
「ハルくん、ちゃうって…おままごとの結婚と違うって、やっと…実感が湧いてきてん。うちは気になることは言うし、直して欲しい所は指摘する、大人しい奥さんにはなれへんけど…それでもええ?」
なんでも従わせようとしない、問題は話し合って解決へ、かなり年下の自分とでもそんな関係を築けるか、未来は守谷へ問う。
「は……ええよ、あー……さよか……したら言い方を変えるわ。ミラちゃん、付いてこいとは言わへん、家族になろう、一緒に家族を作ろう、やっぱりこれでどやろか」
「うん……それがええ。よろしくお願いします」
昨年と同じように床へ座り直そうとする未来を守谷は止めて、テーブルの上で指輪を渡してやった。
「1年後、ミラちゃんにオレらの苗字をあげる。学校もまだあるし、卒業目指して頑張ろや」
「うん…ありがとう…」
こうしてプロポーズ会食は和やかに閉会を迎える。
・
その後、風呂を済ませて自室へ戻った未来をこれから風呂へ向かう守谷が待ち伏せていた。
「あ、上がりましたぁ」
「うん、わかった……ミラちゃん。さっきオカンの前ではよう言わんかったけどな、前も言った通り、オレは手は出さへんから。しやから…安心して過ごしてな、そんだけや、ほなおやすみ」
「おやすみなさい…」
未来は、守谷がいやらしいDVDで自身を慰めていることは既に知っている。
書斎がわりにしている趣味の小部屋を覗いた時に、レンタルショップの袋の中身を見てしまったのだ。
なんとかしてあげたいが術はなし、そもそもろくに肉の付いていない鶏ガラの様なこの身体に守谷が興奮するとも思えない。
しかし未来は内心ホッとして、これまで通り来年へ向けて花嫁修行を頑張ろうと意思を固めるのだった。
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