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11月・おまけ
守谷のプロポーズ・1
しおりを挟む2009年、とある5月の昼下がり。
その日仕事が休みだった守谷は、同じく休日だった未来を自宅の縁側へ誘い出して並んで腰を下ろした。
「あったかいなぁ、ミラちゃん」
「うん…ハルくん覚えてる?うち、ようここで遊んでたなぁ、」
「覚えてるよ、オレほぼ大人やったしな」
彼らの年の差は13歳…守谷は先月29歳に、未来は本日16歳になったばかりである。
彼女はこの4月からムラタのバイトを始め、同時に定時制高校の学生にもなり、休日は家事をしたりと忙しくも充実した生活を送っていた。
「んっ…あーあー、うん、ミラちゃん、」
急に守谷は咳払いをして畏まり、胡座のまま彼女へ向き直って口元を摩り始めた。
「はい、」
いつもとは違うその態度に未来は少し怯えて、しかし守谷へしっかり体を向けて正座になる。
「あー、ミラちゃん…、ミラちゃんは…オレのこと、その…好きか?」
「えっ、…好き…やけど…」
「その…男性としてやで、その……恋人とか…夫婦とか…そういう『好き』か?」
「好きよ…ずぅと…」
驚きつつも揺るがないその答えに守谷はホッとして、ゆっくりと足を正した。
「ミラちゃ…いや、中井ミライさん、」
「はい…、」
「オレと…け、結婚…する気はあるか?すぐやない、あと4年…ミラちゃんが20になったらや、………正直、年の差もあるし、オレもミラちゃんも忙しいし…既に同居してもうてるし、新鮮味も無いやろうけど……ここに嫁げばオカンがミラちゃんのオカンになる、正式にや。秋花が姉ちゃんに…いや、義妹になんのか。とにかく…家族になれんねや…どやろか…」
「ほんまに…?いや、でも……ハルくん、嫌やない…?」
「んん?嫌ちゃうよ、まぁその……小さい頃から見てたしな、今更…オンナ、いや女性として見れるかって言われるとよう分からんけど…もちろん嫌いじゃないし、好きよ」
自分が胸に抱いてきた「好き」とは違う。
しかし恩人でもある守谷へ報いようと、未来は少し下がり
「ハルくんがいいなら…よろしくお願いします…」
と床へ三つ指をついて頭を下げた。
「もー、そない硬くならんとって、ミラちゃん…いや、こちらこそ…よろしゅう」
守谷も同様に頭を下げて、顔を上げれば至近距離で目が合い未来は幼なさが残る顔を真っ赤にして目を逸らす。
「ふふ、ミラちゃん…あと4年な、もちろんオレは手は出さへんから、安心してな」
「なんで20まで待つん?」
「んー…そら…気持ちの準備というか…な、うん…いきなりやといろいろな、せや、毎年…誕生日になってもミラちゃんの気持ちが変わってへんかったら、改めてプロポーズするわ。指輪とかも…考えたいしな…高校も卒業させてあげたいし、」
「ハルくん!お、お願い…18じゃあかん?」
どうせならもっと早くお嫁さんになりたい、未来は珍しくお願い事をする。
「え、いや…未成年は…」
「お願い、ハルくん…うちのこと嫌?」
「へ、嫌やないって…あぁ…分かった…うん、」
過疎地の農家が外国から嫁を娶るような、偽装結婚で戸籍を分け与えてやるような。
言い方は悪いが守谷の心境はそれに近しいものがあった。
ミライがそれまでにいい相手を見つけるかもしれないし、初恋の相手とはいえ自身にそこまで彼女を引き付けておける魅力があるとも思えない。
こうする、と決めた時点で守谷は他の女性を求める気を捨ててしまったが、もしかすれば今後運命的な出会いが無いとも限らない。
しかして守谷はこの時コーナー長に昇格して半年ほど、更なる出世に向けて意欲を燃やしている頃だった。
思えば前の彼女と別れたのは入社してから3年目だったか、「休みも生活リズムも合わない」と言われて振られたのが最後である。
同じ職種、しかも同じ会社ならあるいは、未来なら不満も無くスムーズに家庭を築けるのでは。
ゼロから婚活をする煩わしさや億劫な駆け引きも無くて済むのでは。
所帯を持てば責任感も人間としての厚みも増して上からの評価も上がるのでは、との目論見もあった。
「ハルくん…浮気、せんとってよ」
「は、当たり前やん……ミラちゃんだけや」
16歳の未来へ「エッチなDVDは許してくれる?」と聞かなかったのは褒められるが、部屋の掃除をされた時に既にバレていることを彼はまだ知らない。
こうして血気溢れる青年守谷は今後、彼女との初夜までは自慰行為だけでその若さを消費することになるのだった。
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