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11月・嫁が可愛いので喧嘩も利用する
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しおりを挟む「フロア長、奥さんとケンカされました?」
配送カウンターの新庄陽菜子が、表情無く売り物のテレビを眺める守谷へ唐突に尋ねる。
「…なんで?あ、嫁から聞いた?」
「いえ、さっき入り口レジ入った時に、フロア長の無線聞いて舌打ちしてらして…」
「チィッ…あいつ……ふん…」
守谷も嫁同様に舌打ちをしてその鋭い眉を更に吊り上げるが、すぐに眉尻を下げて浮かない顔になってしまった。
「珍しいですね、仲良いのに」
「せやね…はぁー…面倒くさいのー…ちょっと見てくるわ」
頭をわしわしと掻いてから、守谷は店内巡回を兼ねて嫁が立つ入り口近くのメインレジへ向かう。
「おつかれさん」
お客の列が途切れたのを見計らい、守谷は未来へ話しかけるも、やはり歓迎されてないらしい。
彼女は怪訝そうに上司である夫を睨み、あからさまに怒っている風で顔を背けてしまった。
「……」
家ならまだしも職場でこれをされると守谷は指導せざるを得ない。
隣のレジに立つ同僚の吹竹愛花も気まずそうに夫妻の顔を交互に見て目を逸らす。
「…守谷さん、挨拶は基本や。プライベートを仕事に持ち込むんは大人気ないで。あとオレ上司やからね」
「!」
夫からもっともな指摘を受けて少し固まり、未来は情けない顔で振り返って
「すみません、おつかれさまです……ア、いらっしゃいませ、こちらどうぞ!」
と挨拶をしてすぐさまレジに並んだお客を捌きだした。
他のスタッフも居るし、守谷はふむ、と来た通路を持ち場の黒物コーナーへ引き返して行く。
棚卸しセールも終わり年末までの僅かな閑散期。
コーナーへ戻った守谷は壁際に部下の葉山青年と並んで立ち、ついつい嫁の愚痴をこぼしてしまう。
「葉山、例えばやで?冷凍庫に『だいふくアイス抹茶味』が2パック入っててな、お前やったら何個食う?」
それはモチモチの求肥で濃厚なミルクアイスを包んだ人気商品、の新作のことである。
「あの2個入りのやつですか?…家族の人数によりますよ」
「4人や。でもこのうち2人はこのアイス食わへんねん。しやったらなんぼ食べる?1パック食べるやろ?」
「んー、そうですね…買ってきた人に確認してからですかね」
葉山はなるべく上司の望む答えになるよう忖度する。
「俺が買うてんで?」
「んー…ふふ……食べて、奥さんに怒られたんですか?」
「しや。いや、息子は抹茶味食わへんし、オカンもアイス食わへんねんで?しやのにえらい怒られてん。朝見つかって、解決せんまま出てきてな」
「へぇ…」
「ヒステリーってやつやろか…若いのに…」
共働きなのだから、「俺の稼ぎで買ったアイスやろ」なんてことを言うつもりは無いのだ。
ただ、嫁がそこまで怒った理由が守谷には分からなかった…せっかくの金曜日だというのに気が滅入ってしまう。
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