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10月・おまけ

家族でお風呂・前編

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 10月下旬のとある夜。

「ママ、ここどしてん?青いよ」

「んー?あー、仕事中にプラコンで打ってん」

体を洗っていた未来みらいは息子に指されたスネのアザ、打撲したその痕を恥ずかしそうに撫でた。

「ぷらこんって何?」

「プラスチックのコンテナ、商品入れた固い箱よ。…痛かったろ」

浴槽に息子と先に浸かっている夫・守谷もりや春馬はるまは泡だらけの嫁の体から目を離さずに双方に声を掛ける。

「まぁね、PC担当が置いて行ってんけど気付かんくて、振り返り様にガン!や。品出し途中やったんよ」

「けしからんね、労災やで」


 守谷が休みの日はこうして親子3人で入浴する。

 単身赴任から戻ってからはずっとこうすることにしているのだ。

 夫は土日は仕事だし平日も帰りは遅いし、少しでも息子と触れ合える様にと未来が勧めたのだが、彼が「嫁と話す時間も欲しい」と言い出して結局3人で入ることになってしまっている。

 この間に守谷母が台所を片付けたりしてくれているので未来としては申し訳なくて素早く済ませたいのだが、夫がなかなか離してくれない。

 親子の触れ合い、そして息子の目を盗んで嫁の体を触る、視姦する、週一しかセックスチャンスの無い夫の癒しの時間。

 これが無ければ完全にAV頼みになってしまうので彼も全力で取り組んでいるのだ。


「そういや…」

家族の前では仕事の話は滅多にしないのだが、職場の話題が出たついでに未来が守谷へとある計画を打ち明けた。

「うちな、今はパートやけど、また契約社員とか受けて時間増やそうか思うてんけど…どやろか」

「ん?生活費、足りてへん?」

「ちゃうよ、充分やねんけど、貯金かてしたいし…」

息子に守谷の脚の間に入ってもらい、未来も2人と対面する形で浴槽へ浸かる。

「あかんな、却下や」

「なんでぇ?」

ザザーっと溢れた湯が排水溝の蓋を鳴らし、その音が止んでから守谷は夫半分・上司半分の顔で諄々じゅんじゅんと諭し始めた。

「確かに時給も上がるけど仕事量がぐっと増えんで、カフェの吹竹ふきたけさんみたいにあっちやこっちや手伝いさせられて疲れるやろし。ミラはレジ出来るから配送カウンターなんか入れられてみ、修理やらクレーム受付やらだるい事も増える。時間長なるし残業もな。次の日休みやったら他の人に情報の引き継ぎもせなあかんし、『あの件大丈夫やろか』って家にも気分を持ち込みかねん。土日の休みも取りにくいよ、あと夕食はどうする気や、オカンに作らせんの?いっくんの相手してもらうんやったら飯作りまで押し付けられへんで」

「あの」

「あとな、妊活してんのに契約社員なって、『デキましたからパートに戻ります』なんて無責任で都合のいい事はさせられん。スタッフの枠を埋めるために募集かけたり配置換えしたり管理職はせなあかんねんから」

「もうええ」

未来は人差し指で「×」を作って話を打ち切らせ、目を伏してぶぅと口を尖らせる。

「ミラちゃん、絶対しんどいから」

「いっくんが生まれる前は契約社員やったもん、ちゃんと出来てたし……もうええ…嫌なことばっかり言うて…」

「ママ、」

 難しい話を黙って聞いていた息子は立ち上がって未来の頭を抱き締め、

「パパ!ママを泣かしたらあかんよ」

と騎士の如く振り返り、父譲りの眉毛を吊り上げて守谷を睨んだ。

「え、泣いてんの?ちょい、ミラちゃん、ザーッと言うたけど、オレの本心や。いずれなっても構わんけど、今はあかん。いつ…・・妊娠するか分かれへんし、」

「なーかした、なーかした、ばーちゃんに言うてやろ♪」


 あたふたする守谷を置いて息子は口遊くちずさみながら浴室を出ると、タオルだけ巻いてリビングへ走り去った。

「言うなて、いっくん!こら、走るな……もー………よいしょ」

守谷は腕を伸ばして開け放された浴室の扉をピシと閉め、赤い目をした妻にしっかりと向き合う。


「ミラちゃん、」

「保身ばっかり」

「しゃあないやん、オレの職場でもあんねんから。嫁の不手際でオレが責められることだって無くは無いねん…いや、今のところ無いけどな、うん…確かに前も契約社員やったけど、家帰ってぐったりしてたやんか、しんどいよ、」

「しばらくはパートで我慢しますー」

未来はまた口を尖らせフイッと夫から顔を背け、強気な目で浴室壁の平仮名表を見遣る。

「ふん…」
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