上 下
15 / 87
10月・おまけ

嘉島と守谷と葉山くん

しおりを挟む

 10月初旬の棚卸しお疲れ会兼ハロウィンパーティーの席で、年齢・世代を越えて恋バナに花を咲かせる男たちがいた。


葉山はやま、お前…なにその大きい袋」

可愛らしいが異様に大きい紙袋を指して、守谷もりやは尋ねた。

笠置かさぎコーナー長の荷物です。今日は僕は付き人みたいなものですね」

「はぁ、そうか…転勤前からの仲やもんな、え、もしかして付き合うてる?」

「ご想像にお任せしますよ、ふふ」

「………無いか、コーナー長は気弱そうな大人しい男が好きやて前に聞いた事があるわ。お前は図々しいくらいグイグイ来るもんな」

「はぁ、そうですか…残念です(昔は僕も気弱でしたよ)」

今宵、葉山青年はパートナーである笠置ゆいにロリータ服を強引に押し付けている。

 着替えが済んであの強気な顔をどれだけ歪ませているのかが楽しみで仕方ない。



「おつかれさま、もう始まったかな?」

少し遅れて、チーフフロア長の嘉島かしまが合流した。

「お疲れ様です。まだですよ、女性陣は仮装に着替えてますわ」

「そう…楽しみだね、なんか、制服以外の格好って……どんなだろうね?」

「あ、チーフあきませんよ、うちの嫁…いっちゃん可愛いねんから、惚れんとって下さいよ」

守谷は、自分の嫁がとびきり上等であることを隠しもしない。

 そして被せるように

「うちのコーナー長の方が可愛らしいですよ、ちっちゃくて」

と葉山青年もアピールを欠かさない。

「なに、葉山くんは笠置さん推しなの?」

「こいつ、今日の付き人らしいですよ」

「はァ、そりゃあ…でも、うちの……レジ部門には新庄しんじょうさんがいるからね、一番若くて可愛いだろ」

新庄陽菜子ひなこは言うまでもなく嘉島の恋人である。

 まるでトレーディングカードバトルのように、嘉島もパートナー自慢の土俵へ上がった。

「チーフが仰ると、セクハラに聞こえます」

「なんでだよ!」

「あ、うちの嫁もチーフ管轄やん…あとは誰や?」

「商品管理室の宗近むねちかさんと、白物の刈田かりたさんですよ。あ、あと清里きよさと所長の代わりに…パソコン教室?の古賀こがさん…僕はお会いしたこと無いです」

「そらぁ…豪華やなぁ…刈田さんなんか、元がべっぴんやねんから仮装なんかしたら…」

「迫力あるだろうね、宗近さんも…古賀さんは、所長と交流が有るから来たんだっけ(本当はご主人だけど)…」


 ラインナップが揃ったところで、葉山青年は若者らしく

「ぶっちゃけ、どうです?うちの女性陣で、ビジュアルだけで美人ってどなただと思います?好みとか無しで」

とギリギリの質問を管理職へ投げてみる。

「お前…オレらの立場で答えられるわけ無いやろ…セクハラやん…」

「本人に聞こえなければOKだと思いますけど…ミスコン感覚だとしたら、僕は刈田さんが強いと思います」

「ほォ……まァそうだろうね…長身だし。清里所長もね、2大巨頭だよなァ」

ここでの発言は持ち出し禁止、敢えて箝口令かんこうれいも敷かず嘉島も話に乗る。

「チーフ……いや、うーん…うちの嫁も可愛いけど……ミスコンやったらスタイルもやんなぁ?うちのはつるぺたやからなぁ…」

「そういうのは言わなくていいから…」

「あまり接点が無いですが、宗近さんも目が大きくて化粧映えしそうですよね」

「あー、確かに」

「化粧映えだったら…うちの、いや、うちの部門の新庄さんじゃない?清純派で標準的な体型だよ」

 嘉島からするとその陽菜子は26も歳下、彼女と同年代である葉山青年は

「自部門の部下をそんな目で…いやらしいですね」

と発案したにも関わらず意見を叩く。

 この青年は唯と嘉島の仲を多少妬いたりしているのだ。

「なんで葉山くんは俺に対してそうなの?何か怨みでもあるのか?」

「カフェの吹竹ふきたけさんは?今日は仮装はせぇへんみたいやけど…あれも美人やろ」

「そうね……我がレジ部門は人材に恵まれてるわ」

「レジは圧倒的に女性率が高いですからね」

「せやな…黒物はコーナー長一本槍や……お、そろそろ、仮装組は準備できたんとちゃうか?」

 着替えに使っている端の部屋から光が漏れて、ゆっくり扉が開く。


「フロア長の奥さんは、何の仮装ですか?」

「あ?あー、なんやヤンキー風やったよ」

「「ヤンキー」」

「(あのキツそうな顔がたまらんねや)」

ゆとりのある作業着にサラシのワイルドな格好、昔の嫁を彷彿とさせるコスチュームが待ち遠しい。


「コーナー長はロリータやっけ?」

「お人形さんみたいな服です…可愛らしいでしょうね(僕の目に狂いは無い)」

コテコテのフリルとレースの盛りスタイル、普段の姿からは想像し難い甘いスタイルを早く見たい。


「そうかァ…刈田さんは…お、正統派ギャル…派手だなァ…さすが似合うわ…」

「スーツのは……宗近さんか⁉︎化粧で印象がちゃうなぁ、えらい……へぇ……」

「古賀さんは…あ、…なんか……ドラァグクイーンみたい…」

「失礼やろ…あとは…嫁とコーナー長と新庄さんか?」

「今日のメンバーの中では、年齢的には一番ギャルに近いですね、新庄さんは」

「しやね。何ギャルやろか」

「………なんだろうねェ(JKだよ)」

名門女子校の伝統あるワンピース制服、健康的な美しさは逆にそそられるものがありそう。


 大声では言えないことをそわそわと交わしていると、

「あ、出てきました…あァ♡」

ついに彼らの大本命が姿を見せる。


「見て、ほら、うちのミラちゃん、ごっつい化粧やのに可愛らしさも残してるわ、」

「それよりコーナー長ですよ、あぁ、サイズ感もピッタリだ♡可愛い虐めたい

「ん?いや……ほら見ろ、新庄さんだよ、圧倒的じゃない、本物の女子高生に見えるわ、むしろ超えてるわァ」


 もう隠しもせず賛辞を述べるも、それぞれに他者の言葉なんて脳に届いちゃいない。


「(はー、かわいい。うちのが一番かわいい)」

 三者が三様に、しかし実は同じことを考えていたりするのだが…それもこの会では明らかにはならないのだった。



*嘉島は『壮年賢者のひととき』
 葉山は『枯れかけのサキュバス』より
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...