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10月・おまけ
嘉島と守谷と葉山くん
しおりを挟む10月初旬の棚卸しお疲れ会兼ハロウィンパーティーの席で、年齢・世代を越えて恋バナに花を咲かせる男たちがいた。
「葉山、お前…なにその大きい袋」
可愛らしいが異様に大きい紙袋を指して、守谷は尋ねた。
「笠置コーナー長の荷物です。今日は僕は付き人みたいなものですね」
「はぁ、そうか…転勤前からの仲やもんな、え、もしかして付き合うてる?」
「ご想像にお任せしますよ、ふふ」
「………無いか、コーナー長は気弱そうな大人しい男が好きやて前に聞いた事があるわ。お前は図々しいくらいグイグイ来るもんな」
「はぁ、そうですか…残念です(昔は僕も気弱でしたよ)」
今宵、葉山青年はパートナーである笠置唯にロリータ服を強引に押し付けている。
着替えが済んであの強気な顔をどれだけ歪ませているのかが楽しみで仕方ない。
「おつかれさま、もう始まったかな?」
少し遅れて、チーフフロア長の嘉島が合流した。
「お疲れ様です。まだですよ、女性陣は仮装に着替えてますわ」
「そう…楽しみだね、なんか、制服以外の格好って……どんなだろうね?」
「あ、チーフあきませんよ、うちの嫁…いっちゃん可愛いねんから、惚れんとって下さいよ」
守谷は、自分の嫁がとびきり上等であることを隠しもしない。
そして被せるように
「うちのコーナー長の方が可愛らしいですよ、ちっちゃくて」
と葉山青年もアピールを欠かさない。
「なに、葉山くんは笠置さん推しなの?」
「こいつ、今日の付き人らしいですよ」
「はァ、そりゃあ…でも、うちの……レジ部門には新庄さんがいるからね、一番若くて可愛いだろ」
新庄陽菜子は言うまでもなく嘉島の恋人である。
まるでトレーディングカードバトルのように、嘉島もパートナー自慢の土俵へ上がった。
「チーフが仰ると、セクハラに聞こえます」
「なんでだよ!」
「あ、うちの嫁もチーフ管轄やん…あとは誰や?」
「商品管理室の宗近さんと、白物の刈田さんですよ。あ、あと清里所長の代わりに…パソコン教室?の古賀さん…僕はお会いしたこと無いです」
「そらぁ…豪華やなぁ…刈田さんなんか、元がべっぴんやねんから仮装なんかしたら…」
「迫力あるだろうね、宗近さんも…古賀さんは、所長と交流が有るから来たんだっけ(本当はご主人だけど)…」
ラインナップが揃ったところで、葉山青年は若者らしく
「ぶっちゃけ、どうです?うちの女性陣で、ビジュアルだけで美人ってどなただと思います?好みとか無しで」
とギリギリの質問を管理職へ投げてみる。
「お前…オレらの立場で答えられるわけ無いやろ…セクハラやん…」
「本人に聞こえなければOKだと思いますけど…ミスコン感覚だとしたら、僕は刈田さんが強いと思います」
「ほォ……まァそうだろうね…長身だし。清里所長もね、2大巨頭だよなァ」
ここでの発言は持ち出し禁止、敢えて箝口令も敷かず嘉島も話に乗る。
「チーフ……いや、うーん…うちの嫁も可愛いけど……ミスコンやったらスタイルもやんなぁ?うちのはつるぺたやからなぁ…」
「そういうのは言わなくていいから…」
「あまり接点が無いですが、宗近さんも目が大きくて化粧映えしそうですよね」
「あー、確かに」
「化粧映えだったら…うちの、いや、うちの部門の新庄さんじゃない?清純派で標準的な体型だよ」
嘉島からするとその陽菜子は26も歳下、彼女と同年代である葉山青年は
「自部門の部下をそんな目で…いやらしいですね」
と発案したにも関わらず意見を叩く。
この青年は唯と嘉島の仲を多少妬いたりしているのだ。
「なんで葉山くんは俺に対してそうなの?何か怨みでもあるのか?」
「カフェの吹竹さんは?今日は仮装はせぇへんみたいやけど…あれも美人やろ」
「そうね……我がレジ部門は人材に恵まれてるわ」
「レジは圧倒的に女性率が高いですからね」
「せやな…黒物はコーナー長一本槍や……お、そろそろ、仮装組は準備できたんとちゃうか?」
着替えに使っている端の部屋から光が漏れて、ゆっくり扉が開く。
「フロア長の奥さんは、何の仮装ですか?」
「あ?あー、なんやヤンキー風やったよ」
「「ヤンキー」」
「(あのキツそうな顔がたまらんねや)」
ゆとりのある作業着にサラシのワイルドな格好、昔の嫁を彷彿とさせるコスチュームが待ち遠しい。
「コーナー長はロリータやっけ?」
「お人形さんみたいな服です…可愛らしいでしょうね(僕の目に狂いは無い)」
コテコテのフリルとレースの盛りスタイル、普段の姿からは想像し難い甘いスタイルを早く見たい。
「そうかァ…刈田さんは…お、正統派ギャル…派手だなァ…さすが似合うわ…」
「スーツのは……宗近さんか⁉︎化粧で印象がちゃうなぁ、えらい……へぇ……」
「古賀さんは…あ、…なんか……ドラァグクイーンみたい…」
「失礼やろ…あとは…嫁とコーナー長と新庄さんか?」
「今日のメンバーの中では、年齢的には一番ギャルに近いですね、新庄さんは」
「しやね。何ギャルやろか」
「………なんだろうねェ(JKだよ)」
名門女子校の伝統あるワンピース制服、健康的な美しさは逆にそそられるものがありそう。
大声では言えないことをそわそわと交わしていると、
「あ、出てきました…あァ♡」
ついに彼らの大本命が姿を見せる。
「見て、ほら、うちのミラちゃん、ごっつい化粧やのに可愛らしさも残してるわ、」
「それよりコーナー長ですよ、あぁ、サイズ感もピッタリだ♡可愛い」
「ん?いや……ほら見ろ、新庄さんだよ、圧倒的じゃない、本物の女子高生に見えるわ、むしろ超えてるわァ」
もう隠しもせず賛辞を述べるも、それぞれに他者の言葉なんて脳に届いちゃいない。
「(はー、かわいい。うちのが一番かわいい)」
三者が三様に、しかし実は同じことを考えていたりするのだが…それもこの会では明らかにはならないのだった。
*嘉島は『壮年賢者のひととき』
葉山は『枯れかけのサキュバス』より
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