嫁が可愛いので今夜は寝ない

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
37 / 87
11月・おまけ

嘉島と守谷と葉山くん2

しおりを挟む

 在庫整理と商材集めに入った三階倉庫で、人が居ないのを良いことに猥談わいだんに花を咲かせる男たちがいた。


「よっこらしょっ…と……葉山はやま、お前AVとか観んの?」

くだけた態度で、フロア長・守谷もりやは部下に問う。

「なんですか唐突に…」

「レコーダー見て思い出してん」

「そりゃ観ますよ、健全な成人男子ですから。テレビじゃなくてもっぱらスマホですけど」

葉山青年は、商品を積みながら正直に答えた。

 下世話な話ではあるが、一般に流通しているメディアなのだからそれらを視聴することに後ろめたさなど無いのだ。


「はぁ、時代やな、オレ今だにレンタルやわ」

「お店でですか?やりますね。奥さんにバレません?」

「バレとるよ、そらもう。自作の防音のオーディオルームがやっと完成してんけどな、掃除されてすぐバレや」

「えぇー、怒りません?」

「嫁が?怒らへんよ、昔からバレてたしな」

「あー、理解あるんだ、いいですね」

「居候させてる時に普通に部屋にディスク置いてて、18歳未満やのに視界に入れてもうてえらい引かれたわ」

「……お可哀想に…」

二人の馴れ初めをやんわりとはいえ知っているだけに、葉山は妻・未来みらいを気の毒に思う。


「おつかれー、どう?レコーダー集まった?ん……なにこの空気……なんの話してたの?」

セールの責任者であるチーフフロア長の嘉島かしまが合流すれば、変にしっとりした空気に疑問を呈す。

「「AVです」」

 声を揃える部下2人は神妙で、しかし滑稽だった。

「…audioAvisualV?」

「アダルトの方、嫁にバレとるよーって」

「……はは、守谷くんはパッケージ派でしょ?俺もうデジタル化しちゃったよ」

「えー、マジか。借りに行くあのドキドキがええんちゃいます?」

「わかるけど、もう卒業だよ。大体パターンもわかるしさァ、詳細落ち着いて読めるし、パケ詐欺も防げるし」

「あー、僕もサンプル観て決めますよ」

スマートフォンでも簡単に閲覧できる時代、若い葉山とてその辺りの知恵は持っている。

「うへぇ、葉山は何系観んの?年上?」

「僕の歳だと、大体年上になりますけど…女上司とか、生意気な子をねじ伏せる系が好きですよ」

「………それ実際にしてないよね?」

嘉島は葉山青年のパートナーを知っているだけに、想像してしまいゾワゾワしてしまった。

「どうでしょう?やっぱ、彼女に似てる雰囲気の方を選んじゃいますよ」

「わかるわ。俺も。嫁に似てる子をデビューから追いかけてるわ…チーフは?」

「んんー…自然なやつ、棒芝居なしの。リアリティ系。女優さんひとりだけの」

「わかります、シナリオ系やないやつ!オレ、素人モノ」

「ディスクになってるなら素人じゃないでしょ」

「素人の体でやる分には、構わんですよ。棒芝居が冷めんねんな。あと、嫁系は地雷が多い。好きやねんけどな、寝取られとか不倫とか勘弁やで。可愛い嫁とイチャイチャするだけのがええんやけど、少ないねん」

 妄想をフィクションで消化するも良し、現実をフィクションに投影するも良し。

 少なくともここにいる3人は健全にアダルト動画に向き合っていた。


 「ちょっとォ、守谷くんの場合は相手が知れてるんだから性癖披露はやめてよォ、想像しちゃうじゃん」

「あー、あきませんよ、うちの嫁のエロいこと想像したら!」

「だから、したくないから隠しなって…葉山くんも…ほどほどにね」

「チーフ、年下の彼女いらっしゃるでしょう?幼妻モノ観ませんか?」

 もれなく可愛い女優の中でも特にいじらしさが発揮されるそのジャンル、嘉島だって惹かれない訳ではない。

 しかし

「いやァ…ファンタジーより実物が可愛いしねェ」

それはそれ、これはこれ、

「「わかります」」

ここも部下2人は声が揃った。


「でも無茶したらあきませんよ、腰やられますよ」

「まだ大丈夫よ。俺、ゆっくりコツコツ派だから」

「スローペースセックスですか…」

にごしてるんだから言うなよ…」

「実際、体保ちます?オレも40近いけどいつか勃たんようになるのしんどいわぁ」

「保つよ、可愛いから。若い時より燃えてるかも」

枯れかけた泉をもう一度潤してくれた爽やかな力、もし彼女がそう若くなくとも今の勢いは変わらなかったと嘉島は感じている。


「(新庄しんじょうさん凄いな…)」

「なんだよ?」

「いえ、……つかぬ事お聞きしますけど、お相手の方…お若いなら、チーフが初めての彼氏っていう可能性も……?」

「うん、そう聞いてる」

「いいなぁ…」

「なに、お前もチーフに抱かれたい?」

「なんでですか、違います。……彼女の、初めてを貰えるのが羨ましいって話ですよ…僕の彼女は……慣れてますから」

「へェ…(笠置かさぎ…どんだけ…)」

 それが全てではないけれど、未開の地をひらくことに意義を感じる者はそこそこいる。

 今現在愛するパートナーの、その大切な初めても自分のものにしたかったと葉山は悔しがる。

「ええやん、泣かれんで済むなら。嫁はオレが初めてやったけど、やっぱ泣かしてもうたよ」

「えぇ……余程痛いんでしょうね…」


 出産にせよ破瓜はかにせよ、こればっかりは男が集まっても何の答えも出てはこない。

 それぞれがダンマリになって

「………(聞いてみよ)」

と目論むだけで話は広がらなかった。



「…学生みたいな話題だなァ…楽しいねェ」


 この2人が学生なら嘉島は先生といったところか、

「「はい」」

嘉島からの問いかけには最後もやはり綺麗に声が揃っていた。



*嘉島は『壮年賢者のひととき』より
葉山は『枯れかけのサキュバス』より
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...