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11月・おまけ
嘉島と守谷と葉山くん2
しおりを挟む在庫整理と商材集めに入った三階倉庫で、人が居ないのを良いことに猥談に花を咲かせる男たちがいた。
「よっこらしょっ…と……葉山、お前AVとか観んの?」
くだけた態度で、フロア長・守谷は部下に問う。
「なんですか唐突に…」
「レコーダー見て思い出してん」
「そりゃ観ますよ、健全な成人男子ですから。テレビじゃなくて専らスマホですけど」
葉山青年は、商品を積みながら正直に答えた。
下世話な話ではあるが、一般に流通しているメディアなのだからそれらを視聴することに後ろめたさなど無いのだ。
「はぁ、時代やな、オレ今だにレンタルやわ」
「お店でですか?やりますね。奥さんにバレません?」
「バレとるよ、そらもう。自作の防音のオーディオルームがやっと完成してんけどな、掃除されてすぐバレや」
「えぇー、怒りません?」
「嫁が?怒らへんよ、昔からバレてたしな」
「あー、理解あるんだ、いいですね」
「居候させてる時に普通に部屋にディスク置いてて、18歳未満やのに視界に入れてもうてえらい引かれたわ」
「……お可哀想に…」
二人の馴れ初めをやんわりとはいえ知っているだけに、葉山は妻・未来を気の毒に思う。
「おつかれー、どう?レコーダー集まった?ん……なにこの空気……なんの話してたの?」
セールの責任者であるチーフフロア長の嘉島が合流すれば、変にしっとりした空気に疑問を呈す。
「「AVです」」
声を揃える部下2人は神妙で、しかし滑稽だった。
「…audiovisual?」
「アダルトの方、嫁にバレとるよーって」
「……はは、守谷くんはパッケージ派でしょ?俺もうデジタル化しちゃったよ」
「えー、マジか。借りに行くあのドキドキがええんちゃいます?」
「わかるけど、もう卒業だよ。大体パターンもわかるしさァ、詳細落ち着いて読めるし、パケ詐欺も防げるし」
「あー、僕もサンプル観て決めますよ」
スマートフォンでも簡単に閲覧できる時代、若い葉山とてその辺りの知恵は持っている。
「うへぇ、葉山は何系観んの?年上?」
「僕の歳だと、大体年上になりますけど…女上司とか、生意気な子をねじ伏せる系が好きですよ」
「………それ実際にしてないよね?」
嘉島は葉山青年のパートナーを知っているだけに、想像してしまいゾワゾワしてしまった。
「どうでしょう?やっぱ、彼女に似てる雰囲気の方を選んじゃいますよ」
「わかるわ。俺も。嫁に似てる子をデビューから追いかけてるわ…チーフは?」
「んんー…自然なやつ、棒芝居なしの。リアリティ系。女優さんひとりだけの」
「わかります、シナリオ系やないやつ!オレ、素人モノ」
「ディスクになってるなら素人じゃないでしょ」
「素人の体でやる分には、構わんですよ。棒芝居が冷めんねんな。あと、嫁系は地雷が多い。好きやねんけどな、寝取られとか不倫とか勘弁やで。可愛い嫁とイチャイチャするだけのがええんやけど、少ないねん」
妄想をフィクションで消化するも良し、現実をフィクションに投影するも良し。
少なくともここにいる3人は健全にアダルト動画に向き合っていた。
「ちょっとォ、守谷くんの場合は相手が知れてるんだから性癖披露はやめてよォ、想像しちゃうじゃん」
「あー、あきませんよ、うちの嫁のエロいこと想像したら!」
「だから、したくないから隠しなって…葉山くんも…ほどほどにね」
「チーフ、年下の彼女いらっしゃるでしょう?幼妻モノ観ませんか?」
もれなく可愛い女優の中でも特にいじらしさが発揮されるそのジャンル、嘉島だって惹かれない訳ではない。
しかし
「いやァ…ファンタジーより実物が可愛いしねェ」
それはそれ、これはこれ、
「「わかります」」
ここも部下2人は声が揃った。
「でも無茶したらあきませんよ、腰やられますよ」
「まだ大丈夫よ。俺、ゆっくりコツコツ派だから」
「スローペースセックスですか…」
「濁してるんだから言うなよ…」
「実際、体保ちます?オレも40近いけどいつか勃たんようになるのしんどいわぁ」
「保つよ、可愛いから。若い時より燃えてるかも」
枯れかけた泉をもう一度潤してくれた爽やかな力、もし彼女がそう若くなくとも今の勢いは変わらなかったと嘉島は感じている。
「(新庄さん凄いな…)」
「なんだよ?」
「いえ、……つかぬ事お聞きしますけど、お相手の方…お若いなら、チーフが初めての彼氏っていう可能性も……?」
「うん、そう聞いてる」
「いいなぁ…」
「なに、お前もチーフに抱かれたい?」
「なんでですか、違います。……彼女の、初めてを貰えるのが羨ましいって話ですよ…僕の彼女は……慣れてますから」
「へェ…(笠置…どんだけ…)」
それが全てではないけれど、未開の地を拓くことに意義を感じる者はそこそこいる。
今現在愛するパートナーの、その大切な初めても自分のものにしたかったと葉山は悔しがる。
「ええやん、泣かれんで済むなら。嫁はオレが初めてやったけど、やっぱ泣かしてもうたよ」
「えぇ……余程痛いんでしょうね…」
出産にせよ破瓜にせよ、こればっかりは男が集まっても何の答えも出てはこない。
それぞれがダンマリになって
「………(聞いてみよ)」
と目論むだけで話は広がらなかった。
「…学生みたいな話題だなァ…楽しいねェ」
この2人が学生なら嘉島は先生といったところか、
「「はい」」
嘉島からの問いかけには最後もやはり綺麗に声が揃っていた。
*嘉島は『壮年賢者のひととき』より
葉山は『枯れかけのサキュバス』より
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