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8(最終話)

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 そして今夜も。


「私の顔が変わっても良いの⁉︎」

「グダグダ言うならしちゃえって」

「今の私を好きって言って欲しいの‼︎」

「だから可愛いって言ってんじゃん」

「ぷきー‼︎」


 きっと死ぬまでこうなんだろう。

 俺がどれだけ褒めたところで持ち主が満足しないなら意味が無いんだ。

 それなのに俺に意見を求めて決定権があるかのように見せるんだ。

 まったく面倒臭くていけない。


「夜なんだから静かにしなよ…寝かし付けはするから風呂入って来な」

「…タカくんみたいに可愛いお目々してる人には、私の気持ちなんて分かんないんだ」

 今日もよく分からないタイミングで、妻のコンプレックスに火がついてしまったようだ。

 おそらく先程夕食中にテレビで流れた、二重整形術のコマーシャルのせいなのだろう。

 特にラストの『私らしく生きる』的なコピーがじわじわと彼女の脳裏で増殖して、食器を片付けている間にこぼれ出してしまったらしい。

 美的感覚と持ち前の造形が乖離かいりしていると苦痛で仕方ないわな、しかも理想形が世間的に上等とされているんだから劣等感もあろう。


 誰に馬鹿にされた訳でもないのに長引く悩みだ。

 お茶を飲み終えた娘を膝から下ろして俺も立ち上がる。

「分かるかよ…ミーさん、こっち向いて」

「なに」

「……その色、良いじゃん」

「…分かるの?」
 

 仕事帰りで崩れてはいるがもちろん分かる。

 シャープなシルバー系から華やかなピンク系に変わったんだから気付かなきゃ余程のボンクラだ。

 新色をチェックしていたんだろう、リップカラーも揃いで変えたんじゃないのか。

 こんなにお洒落を楽しんでいる妻が可愛くないなら、世の中『可愛い』に該当する人間はいやしない。

 可愛くなろうと期待して試して一喜一憂するうちの妻が可愛くないならば、不届な単語は撤廃してしまえば良い。


 まぁそれは言い過ぎだけど、明日が休みで少し心に余裕のある俺は娘が寝たら妻の愚痴にとことん付き合おうと決めた。

「ああ分かるよ…これ、何て色?」

 前髪を掻き分けてコンプレックスに触れれば、妻は恥ずかしそうに答えてくれた。


 ベビーピンクの腫れぼったいまぶたは可憐でいじらしい。

 閉じようとするそれをもう一度ちょんと触り、

「また後でな」

とフェイスラインに沿ってあごをクイと持ち上げ手を離した。


 化粧を落としながら俺のことを考えろよ、そしてすっぴんを恥ずかしがりながら俺に抱かれろ。

 自虐しても良いさ、力尽くで認めさせてやる。



「俺の、可愛い嫁さんだよ、なぁッ⁉︎」

 その夜、愛らしい目を真っ赤にした妻は涙を振り絞って、

「ゔんッ」

と応えてくれた。


 ほらつむれば何だって同じだ。

 腕の中の妻は最高に魅力的で可愛いんだ。



おしまい
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