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しおりを挟む「ん?」
春の棚卸しを終えた記念に催した小規模な呑み会の席。
同じ部門でなんとなく固まって座る商品管理室の面々…口々に労い合っていたその時、女性事務員・宗近さんはテーブルの下に置いてあったスマートフォンに意識を取られた。
『♪~』
ちょうどその時それはメッセージを受信して黒い画面が明かり、宗近さんは差出人と本文、そしてロック画面の壁紙をまともに見てしまったようだ。
「……あ、」
「…見てもうた?」
「!すみません、目に入っちゃって」
「ええよ、……これ、誰か分かる?」
声を掛けたのは隣に座っていたそのスマートフォンの持ち主である俺・芳井幹彦、彼女が所属する部署の暫定室長であった。
暫定、というのは4人しかいないスタッフの中で何かと年長者である俺が責任者になりがちだったために決まったことで、なんら権限がある訳でも管理職として手当が付く訳でもない、ただのお飾りの肩書である。
俺が通知を消して待ち受け画像だけを掲げれば、宗近さんは
「え、あのー…白物の…メーカーさんですよね、**の…」
と見覚えのあるその顔と所属を思い出して答えた。
「うん、片塚。一緒に住んでんねん、ルームシェアというか…賃貸の一軒家で」
「はぁ……なんか接点が…こことメーカーさんって…無くて…知らなかったです」
「働き出して知りおうたんやなくて、今の仕事を俺が紹介してん。あいつ、何年かプータローやったから。でも家電詳しいし和かやし、向いてる思うてね、」
「な、なるほど…元々がお知り合いだったんですね」
宗近さんは「まずいものを見てしまった」という表情で唇を巻き込んで噛み、一番近くにあった焼き鳥盛り合わせの皿へ手を伸ばす。
というのも待ち受け画像は俺と片塚の頬をつき合わせたツーショット自撮り。
そうなれば「ルームシェア」の意味合いも少し変わってくるのだ。
だって片塚祥吾は男性、俺とそう歳も変わらない…世間的に言うところの40代のオジサンなのである。
「そうそう。友達……やな、宗近さんは聞いたことあるやろ?俺……どっちもイケるって」
「は、い、あのー、話だけは」
「あ、別に隠してる訳やないから。昔から揶揄われたりいじられたりはしてて慣れてる。そんなデリケートに扱わんでもええねん」
多様化が認められる時代になってはきたがその存在はやはり異質、宗近さんも俺が心無い上司から「ホモだ」「ゲイだ」といじられているのは見たことがあったはずだ。
しかし俺が女性相手の合コンへ出掛けていく姿も見せたことがあるし、雑談の中でとある女優を「キレイやんな」と評したこともある。
「どちらか」ではなく「どちらも」、宗近さんがその区分に親しみが無いのも別段不思議なことではない。
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