薮から棒な巴さん…見たい、知りたい、触りたい。

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
41 / 46
5

41

しおりを挟む
「さすがにアースガイル。
 使節船も立派なものだ。」

 砂漠の国“デザリア”で宰相を務める男は星空の下、近づいてくる大型の船を見つめていた。

 到着は翌日と思われていたが、返信をした日の内に着くとは、相手も随分と無理をしたらしい。

「急かしたわけではないのだがな。」

 問題が起こっている。
 どこにも寄らずに王宮に来いと言っておいて急かしてないはない。

 使節団の代表がアースガイル国王の愛する第2王子と知った上で、どう動くか試したのだ。

「流石、勤勉と謳われる王子だけある。
 愚鈍でないと分かって安心した。」

 アースガイルの使節船はデザリアで好まれる派手な装飾でないにしろ、シンプルにも洗礼された美しい船だった。

 見事に横付けにされた使節船から帽子の大きな男が降りてきた。

「これはこれは、豪勢なお出迎え痛み入ります。」

 男は目の前に立つ老功に軽く頭を下げた。

「無事の到着なによりです。
 貴方は・・・。」

 宰相がといかけると、男は帽子を脱ぎ胸に当てた。

「ハッ。
 私はアースガイル貴族、フィルディナンド・クロス。
 伯爵位を賜っております。
 この度は使節船の船長という大役を任されておりました。
 ディビット・ドゥ・アースガイル第2王子は間も無く参ります。
 今暫くお待ちください。」

 クロス伯爵と名乗った男に宰相は1つ頷くと静かに浮かぶ船を見上げた。

 そこに、1人の若者が現れるとアースガイルの騎士や船員が背筋を伸ばす。

 宰相はこの若者こそが第2王子かと、見極めるように見つめた。

 若者は軽やかに階段を降りてくるとクロス伯爵の肩にポンと手を置いて微笑んだ。

「楽しい船旅でした。
 世話になりました。
 帰りも頼みます。」

「ハッ!
 光栄であります。
 ディビット様をアースガイルにお送りするまでが私の仕事です。
 どうぞ、“デザリア”の滞在が実りあるものである事を願います。」

 クロス伯爵の通る声にディビットは笑いを堪えながら頷いた。
 
 そして出迎えの先頭にたっていた老功に目をやると、かけていた眼鏡をクィッと上げて微笑んだ。

「待たせてしまいましたか?」

「とんでもない事でございます。
 ようこそ“デザリア”までお越しくださいました。
 私、宰相を務めますナロ・シウバと申します。
 責任をもって王宮までご案内致します。」

 老功の挨拶にディビットは優しく頷いた。

「ありがとう。
 あの有名なナロ・シウバ殿に会えて嬉しいかぎりです。
 『砂漠における革新的防衛の考察』の論文を拝見しました。
 興味深い記述が多く、呼んでいて勉強になりました。」

「なんと!
 アレは私が20代の折に書いた、およそ傑作とはほど遠いと論ぜられた物ですぞ?
 読まれたのですか?」

「えぇ。
 我が国は砂漠ではありませんが、通じる物がないとも言い切れないでしょう。
 論文とは研究者達の本気の証。
 国の統治に関わる者は、どんな考えでも拒まずに知識として頭に入れるべきです。
 ・・・まぁ、偉そうな事を言いましたが、本当は私が読み物が好きというだけの話ですがね。」

“デザリア”の宰相ナロ・シウバはアースガイルの若き王子との出会いで、国を揺るがす問題が解消されるのではないかと願わずにいられなかった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...