薮から棒な巴さん…見たい、知りたい、触りたい。

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　いやはや自称ポンコツとはこういうことか。

　ドキドキして息苦しくて胸が締め付けられて、と条件は出揃っているにも関わらず認めたくないのかできないのか。

　学術的に「ＡがＢしたら恋である」なんて断定できる資料でもあれば良いのだが。

　まぁ一生恋を知らず死んでいく人もいると言うしじわじわでも好きな気持ちが大きくなっているのなら儲けものだ。

「そうかしら」

「はい…あの、辞書を引かないと正確なことは分かりませんけど、体中の血が一気に巡るみたいに熱くなって、考えるだけで胸が締め付けられて、頬っぺたなんかも赤くなったりして、それを一般的には恋に落ちた状態と呼ぶのではないかと」

「それは人間に対しての場合に限るかしら」

「いえ、動物とか二次元のキャラクターとかでも。興奮状態になったり、もっと触りたいとか近付きたいと思ったりとか…もっと情報が欲しくなったり、独占したくなったり、異性愛者なら異性に、そういう兆候が出るならば恋だと…僕は思います」


　世の中は広いから、血の通わない無機物を対象としてそういう状態になる人もいるらしい。

　許される国ならば動植物と結婚したり動きもしない物とセックスをしたりする稀有なケースもあるのだとか。

　それを「異常者だ」と叩くのは簡単だが恋愛や性愛の対象はひとそれぞれ、中でも一番ベーシックな人間の男女間に生まれたそれを巴先輩には是非とも信じていただきたい。

「なら…私のこれは、恋なのね…今もドキドキしてるの、触ってみる？」

「い、いえ…今度で良いです」

「そう…ただの好奇心だったのが変なの、私、悠希斗くんに近寄りたくて触れたくて仕方ないの」

「……うへ」

思ったことを垂れ流しにする先輩の気持ちを拾って受け止めるのもひと苦労だな。

　「それは性欲ですよ」と言ってみたいが暴れられても困る。

　しかしこうもはっきりと肉体的な接触を求められると冷静になるもんだ。

　それは昼間の屋外ということもあるだろうが僕が性懲りも無く描いている巴先輩のキャラクターとの乖離かいりに戸惑っているからだろう。

　前回は恐れ多くてもったいなくて手を出せなかったが今は少し違う。

　巴先輩には恥じらいとか恋のドキドキをもっと味わってからその先に進んでいただきたいのだ。

　まぁ進めるのは僕なのだが、その僕だって一端いっぱしの男なのだからムードを作って作ってゴールテープを切るというのも人生勉強のひとつになるかもしれない。

　焦らして、恥ずかしがらせて、怯ひるんだところをパクッと食べてしまおうか…なんて企くわだててみる。