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しおりを挟むイルカも好きなのか、壁の案内表示を頼りに屋外プールへと向かう僕は
「急ぎましょう」
と巴先輩の手を取った。
まだ時間はある、絶対に間に合う。
けれど彼女の興味を質に取って一線を越えてみたのだ。
「(反応は…?)」
「…悠希斗くん…結構グイグイ来るのね」
「え、あ…ごめんなさい」
「…良いわよ…別に不都合無いわ、交際してるんだもの。ガキじゃあるまいし」
はしゃぐ姿を観覧していたことをまだ根に持っているのか。
横目で僕を睨む巴先輩は握られた手を一旦開いて据わりの良い様に微調整した。
「(手、小さいな)」
僕らの身長差は15センチくらい、こうして並んで歩くと先輩の小ささというか当たり前な女性の華奢さみたいなのを露骨に実感できる。
僕は大柄ではないし特別屈強ではないが、何かあれば文字通り盾となってこの人を覆い隠せるくらいには男性の逞しさを持っている。
例えばだけどイルカショーで水が飛んできたら壁となって守る所存だし、濡れた床で滑りそうになったらその細腕をギュッと引っ張り上げて助けてあげるシミュレーションはとうに出来ている。
「…手、大きいのね」
「そうですか?」
「うん…男性みを感じるわね」
「妙な言い方をしないで下さい」
そりゃ僕は男ですけどね、気分が解れたところでイルカショー会場へと着き、僕らは空いていた後列の方へと座った。
さすがにここまで水飛沫は来ないだろう。
行き過ぎたヒーローシミュレーションを恥じていると巴先輩はスマートフォンを操作して何やら調べ物を始める。
そして
「ねぇ、悠希斗くん見て、イルカはこうなんですって」
と『イルカ ペニス』の検索結果を僕に見せてくれた。
シルバーグレーの体に見合わないピンクのソレはまるで合成みたいに鮮やかだ。
「……これからショーを観るってのに不純だなぁ」
「ピンクよ、キレイなのね」
「…こんなの見たこと無いなぁ…普段は収納してるんですかね」
「そうなのかしら…確かに、プラプラさせてる動物っていないわよね、今度動物園も行きましょうね」
それは次のデートのお誘いですか、それとも本気ですか。
たぶん後者なんだろうな、けたたましいホイッスルに注意を引かれたふりをして僕は巴先輩から目を逸らした。
その後は実に爽やかで模範的な若者らしいデートだったと思う。
跳ね上がるイルカに歓声をあげる僕、土産屋で水時計に釘付けになる僕、多少割高だけど写真映えする館内ランチに喜ぶ僕。
と何故かここはあっさりリアクションの巴先輩は午後も水族館を楽しんだ。
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