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 交際を始めて1週間後の土曜日。

 僕らは初めてのデートをすることになった。

 行き先は水族館、地元にもあるけれど今回は横浜まで足を延ばしている。


「キレイね…」

ウミガメが悠々と回遊する様子を目で追って、ともえ先輩がため息の如く感嘆を漏らす。

 先輩はここは初めて来るらしく、それも今回ここを選んだ理由のひとつだった。

「巴先輩、楽しいのは分かりますけど先に進みませんか」

「…まだ」

「もう10分はここに居ますよ、せめて少し水槽から離れましょう?息で曇ってます」

「…分かったわ」

 僕に注意されてバツが悪そうに一歩下がれば、空いた隙間に幼稚園児くらいの小さな子ども達が入り込む。

 先輩はよほどカメが気に入ったのだろうか、名残惜しそうにキラキラ光る巨大水槽を後にした。


「先輩、カメとか好きなんですか?」

「そうでもないわ。予測の出来ない動きをするものを見ているのが楽しいの」

「なるほど」

「可愛いわ、あ、次はサメよ、ほら早く」

「はい、はい」

 彼女の主張は分からんでもない。

 動く物を追うのは生物の本能だろうし眺めるだけでも興味を引かれてワクワクする。

 菓子の製造工程とかコンベアで運ばれる自動車とか、規則性のある動きを見るのも楽しいが『予想外』が巴先輩には何よりのスパイスなのだろう。


「わぁ…大きいわね…」

 好奇心を刺激されて瞳が水面みなもの様に揺らめき光って、それは僕に無茶な要求をしてきた時と同じ表情だった。

「(僕のちんちんは鑑賞物なのか…品評とかされたら泣いちゃうなぁ)」

悠希斗ゆきとくん、見て、キレイよ」

さめの大きな腹を見上げて僕を振り返り、それに「はい」と応えたのだが先輩はハッと眉頭を上げて、すぐ目を伏せ浮かない顔になる。

 まるで叱られた子どもみたいだ。

 さっきまでのご機嫌ぶりが嘘みたいに静かになって気まずい沈黙が数秒続いた。


「…あんまり…興味無かったかしら?私ばかりはしゃいでいるわ」

「いえいえ…僕は一度来たことがありますしね、巴先輩ほどテンションは上がりませんよ」

「私がガキみたいだって言うの?」

「違いますよ、はしゃいでいる巴先輩を見て充分楽しんでます」

 ここに来ることを提案し決めたのは僕だしツアーコンダクターくらいの気持ちでいた。

 なので僕は確かに水族館の魚自体にはそこまで気分は上がっていない。

 先輩をリードして歩きたかったし、ランチの算段やタイミングなんかも考えていて見学は二の次状態だ。

 だから僕としては先輩が楽しんでくれるのが対価みたいなもので…実際目の色を変えてはしゃぐまでの想像はしていなかったから今回のツアーは大成功と言える。

「…なら良いんだけど。次、行きましょう」

「…そうだ、あと10分でイルカショーが始まりますから、観に行」

「行くわ!」

とても食い気味に応答して振り返る巴先輩の髪に水槽のLEDが反射してつややかで、元気を取り戻した彼女の瞳は爛々らんらんと輝く。
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