薮から棒な巴さん…見たい、知りたい、触りたい。

茜琉ぴーたん

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「この前ね、駅前の美術館あるでしょ?あそこで地元芸術家の発表会みたいなのがあったの」

「はぁ」

「そこにね、こんなおっきな、裸像があったのね、男の人の」

おそらく等身大なのだろう。

 先輩は両手を高く掲げてその裸像の大きさを示す。

 なるほど芸術作品なら何をやっても許されがちだ、おっぱいでもヘアヌードでも許容される。

「はぁ、」

「私、釘付けになっちゃって。股間に。ペニスに」

「せめてぼかしてくれないかなぁ…」

 もうこの教室は使われる予定は無いが、清掃や部活動で誰かが入って来ないとも限らない。

 お綺麗な先輩の口から何度も聞きたいワードではないのだ、そしてできれば『おちんちん』とかであって欲しかった。

 先輩は割と、物の名前を正式名称で言いがちなところがあるから性分なのだろうが…それかいっそ恥じらってくれれば可愛げがあるのに。

「何を?」

「言い方。何か…何でも良いから隠語で話して下さいよ」

「えー…ペニ丸とか」

 ペットの名付けじゃないんだから、これを真面目に言ってるんだから手に負えない。

 それとももしかして先輩なりのジョークなのか。

 その後も『ペニ助』だの『ペニ夫』だの馬鹿馬鹿しいネーミングが続く。


「先輩、下品ですよ」

「……ペ、ぺ…」

「ぺから離れましょう」

「えぇー……じゃあ棒ね、暫定」

「……」

 『アレ』とか『ソレ』でも良いし文学的に『シンボル』とか『槍』とかでも良いのだが…彼女にとってはソレは記号的な扱いに近いみたいだ。


「どこまで言ったっけ?…あ、そう、裸像のね、棒が見事だったのよ」

「大きさとかですか?」

「そう。西洋人ってあんな感じなのかしらね、太さとか大きさとか。材質はたぶん石膏せっこうなんだけど陰毛のちょちょっと生えた感じとかリアルでね」

「へぇ」

「質感というかまるで本物みたいで…あ、私本物は見たこと無いんだけどね」

「どないやねん」

 あーもうついに関西弁で突っ込んでしまった。

 こちとら県外で暮らしたことも無い生粋の神奈川県民だというのに。

 そのリアルな裸像のソレが何なんだ、もう帰ろうかなと片付け途中になっていたノートをパタリと閉じる。

 僕はこの西御門先輩のことが、実は少し好きだった。

 座席指定の無いゼミでも一番前に陣取って、教授や仲間の発表に熱心に聞き入る斜め後ろ姿が美しくて魅力的だった。

 資料を回す時に手がちょんと触れたりするのもドキドキしたし、それに気付いて「なぁに?」と微かに笑う彼女が可愛いと思っていた。

 学祭の買い出しで一緒に過ごして雑談も交わしたし、呑み会でも彼女に嫌な絡み方をするやからを引き剥がしたりとそれなりに良い働きをしてアピールしたつもりだ。
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