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何でも話せる、それは彼女じゃなきゃだめ?
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しおりを挟むモヤモヤとしつつも心の平穏を取り戻していたある日のこと。
仕事が終わってアパートへ帰ると、玄関横に彼が蹲っていた。
「……!」
彼は私を確認すると暗い表情が一気に晴れやかになって、しかしその目はどんより曇っている。
共用廊下の蛍光灯では不鮮明だが、それでも彼が不健康そうなことは窶れ具合から見て明らかだった。
頬に大きく窪みができて影が掛かっている。
「…何か用?荷物は届いてるはずだけど」
「あの、ごめん、もう一度やり直せないかな」
「はぁ?」
鍵穴に鍵を差し込んでは、素直な感想が出た。
彼が言うには、私と別れてから相談女に「彼女と別れちゃった、寂しいよ」と相談を持ちかけたそうなのだが、「大変ですねぇ」と返事が来たっきり音信不通になったらしい。
彼としては相談女とどうにかなろうと考えていなかったそうだが、こちらが不安定な状況なのに他人事で済まされたのがショックだったみたいだ。
他人なんだから他人事で当然だと思うのだが、彼としては互いの悩みを対等に相談し合えると期待していたらしい。
解決せずともせめて話を聞いてもらってスッキリしようと思っていたのに当てが外れて、しかも逃げられて衝撃だったのだと。
彼はきっと聞き上手というか共感性能力が高くて、人の話を聴く力に長けていたのだろう。
私も交際中は色んなことを話したし、逆に彼の話もしっかりと聴いて意見を言い合ったりしていた。
お喋り好きだしコミュニケーション好き、積極的に人と関わりに行きたい部類の人だった。
ただこちらも気分の起伏があるので話したくない日もあったりして、鬱陶しく感じたこともあった。
それを露わにしてしまった頃、相談女とのお喋りの方に魅力を感じて引き込まれて行ったみたいだ。
「へぇ~…そっか、じゃあ元同僚さんは貴方と付き合いたい訳じゃなかったんだね」
「そうなんだよ、相談するだけして、こっちの話は聞いてくれなくて」
「聞いてもらえないって辛いよね。気持ちは分かる」
「だろ⁉︎だからさ、」
「もう話すこと無いからさ、帰ってね」
私はそう言うと、素早く解錠して部屋に入った。
「お、おい!待ってくれ!」
「けーさつ呼ぶよー」
「おい、おい…」
動機とキッカケが分かったところで「別に」という感じである。
面倒見が良くて人懐っこくて、「やれやれ」と思いつつも上手く操縦していけば続いたのかもしれない。
この辺りは自分勝手なところかな、
「貴方と話したくないの」
と投げて玄関扉から離れた。
一緒に居ても楽しいけど、ひとりの時間も欲しかった。
それを話し合えれば良かったのだが、価値観の擦り合わせが難しかった。
「(放っておかれた時は確かに孤独感はあったけども)」
親世代から見てもきっと有望株、でも一度ケチがついたのだから無理っぽい。
彼はいつ帰ったのか分からない、寝る前に小窓を覗いたら居なくなっていた。
ベタベタする間柄ではなかったけど、彼は常に人と繋がっていたいから私を傍に置いて相談女と話していたのだろうか。
その割に同棲は提案されなかったし、都合の良い時に一緒に居たかっただけなのかも。
その後数日は追い討ちが恐かったが、彼は私の前に現れなかった。
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