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18章(最終章)
86きゅん
しおりを挟む時は流れて半年後…
『もしもし、真梨亜さん、もう着くかな?』
午前中の甕倉駅は観光客で溢れて大混雑、大輝は目を凝らして降車客の中に輝く金の頭を見つける。
『うん、見える?大輝くーん、ここ!』
『あ、本当だ、切るね』
「大輝くーん、久しぶり♡ん、ん♡」
ヨーロッパ系の観光客の団体の奥から走って追い越した真梨亜は大輝に飛び付いて、これでもかとハグキスを繰り返した。
地元よりも外国人率が高い横浜で揉まれた真梨亜は以前より人目が気にならず度胸も付いていて、まるっきり留学してきた外国人ばりにリアクションも向こうに寄せるようになっている。
「真梨亜さん、外国人みたいだ」
「ごめん、やっぱnativeの人と話してると表情とかうつっちゃって」
「眉毛の動きがそれっぽいね」
「家電側にも呼ばれるから話す機会が予想外に多くて相槌とか言い回しも覚えた…はー、久しぶり…大輝くん♡」
「ナンパとかされてない?」
「されたけど断ってるってば、もう」
二人は毎晩連絡を取り仕事の悩みや報告は絶えずするようにしているのだが、夏の繁忙期は目まぐるしい忙しさでひと月ばかり会えずにいたのだ。
テレビ電話がただの音声通話になりチャットだけになり、休みは体力を温存したいと外出も控えるようになり。
お互いがお互いに割く余力を失くしてしまっていた。
「嗅ぎ過ぎだよ…真梨亜さん、とりあえず出よう……そうだ、僕ね、来月のシフトから法人事業部に所属が変わるんだ」
泊まりがけの真梨亜の荷物を持った大輝は改札を抜けて、見慣れた駅前公園の傍をゆっくり歩き観光客の群れから離れる。
多くの観光客は駅前から商店街や市街地へと流れて行くため、ここらに留まるのは地元民くらいなものであった。
「法人?」
「うん、法人事業部。置いてる店って少ないからさ、横浜に一歩近付いた感があるよ」
「そう、なのかな」
一般客ではなく企業や官公庁を相手にした法人事業部は大型店舗にしか配置されない特殊部門だ。
40を超える出店数の神奈川県下でも事業所は10店舗にしか無く、甕倉市内では本店のみに存在する。
なのでもし転勤となれば法人事業部を設置した店舗に絞られるため、大輝は単純に都会・横浜の店舗へ近付く確率が上がった…ような気がしたのだ。
「栄転なら県内頂点はやっぱり横浜だもん、県外なら分からないけど」
「まぁね、それより甕倉本店にbrand部門を作ってくれる方が良いんだけどぉ」
「んー…何かしら目標みたいなポイントを設けて、そこに向けて足並み揃えて行きたいね」
「大輝くん、真面目♡」
にっこり笑う真梨亜の瞳には男ぶりの増した大輝が映り、その彼は公園の時計を確認して「よーし」と繁華街方面へと足先を向けた。
「僕、そんなに真面目じゃないけど…良い?」
「あはっ♡良い、どんな大輝くんだって好き♡」
「ひと月ぶりだから…制御できないかもしれない」
「ご飯は?room service?」
「要らない…晩ごはんはお父さんのレストランだから…お腹、目一杯空かして行こう」
「うん!」と大輝の腕を取る真梨亜は喜びに全身を弾ませて軽やかで、緩く巻いた金の尻尾も遅れてふわりと舞う。
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