真梨亜さんは男の趣味が残念だ

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
58 / 92
13章

57きゅん

しおりを挟む

「……あのさ、クマさんが変な奴だったら、注意してやろうと思って今日来たんだ」

礼央は大輝の素朴で気取らない雰囲気に尽きかけていた戦意を完全に消失、金の頭をポリポリ掻いて悔し紛れに鞄をぶんと大きく振り回した。

「おっと…注意?」

「うん。姉さんって美人でしょ?styleスタイルも良いし、連れて歩いてaccessoryアクセサリーにするような嫌な奴だったら別れさせようと思ったんだ」

「…そうだとしても口頭注意で聞くかなぁ」

「そこはどうにでもなるよ、papaの写真見せて脅してもいいさ…まぁクマさんはもう一度会ってるからこの方法は効かないだろうけどね…うちのpapa、強烈じゃなかった?」

「まぁね」

 確かに知らない人が見たら父・ティツィアーノは堅気かたぎではないような体つきといかつい顔をしている。

 話せば笑顔とカタコトの日本語が愛らしくもあるが写真ではそこまで分かるまい。


 しかしハンバーグといい礼央といいティツィアーノの話題まで出てくれば、大輝の口の中にはあの夜のディナーの味が広がって、反射的にごくんと喉が鳴る。

 そんな心情は知らない礼央は大きな喉仏が動くのを見て、つい興味本位で

「…クマさん、姉さんとどこまで行った?」

とまさかの猥談わいだんをけしかけた。


「え、どこまでって」

「地名とか答えるボケは要らないよ、sexセックスはしてないでしょ?姉さんの雰囲気でそれは分かってる」

「…僕が答えて良いのかな」

「教えてよ」

上背のある礼央は逃すまいと大輝のゴツい肩に手を回す。

 兄弟のこんな話を聞きたいもんかな、言いたくはないな…しかし肩に籠る圧力とすり寄ってくる頬に堪え切れず、大輝は真っ赤な顔で

「…き、キスはした…よ、」

と早めに白旗を揚げた。

「ふーん…そっか…あのさ、大切にしてあげてよ、僕の大切な姉さんだから」

「うん、それはもちろん…僕みたいのを好きになってくれたんだから…大切にするよ」

「自信無いんだ?」

「無いよ、見た目もそうだし…僕から告白はしたていになってるけど…釣り合ってるとは思えない」

「そりゃそうだよ」

礼央は大輝の少し丸くなった背中をバンバンと叩き、意地悪気に眉を吊り上げる。

 うちの姉に似合う外見なんてモデルかハリウッド俳優でも連れて来なきゃ、礼央は特別シスコンという訳でもないのだがこと自分の家族のビジュアルには過大な評価を与えていた。

 そして礼央の美的感覚においては大輝はイケメンではない。

 不細工とも言わないし嫌いではないが本心から冴えない・流行りじゃない顔だと思っているのだ。


「…だから断ってたんだ、真梨亜さんが好意を伝えてくれても…美人局つつもたせかと思った…あ、分かるかな、女の人を使った強請ゆすりみたいなことだよ」

「うん…で?姉さんは悪い子じゃなかったでしょ?」

「うん。だから報いたいんだ。ちょっとでも相応ふさわしい男になりたい」

「クマさんって…眩しいね」

「そう?青臭かったかな」

「いいよ…姉さんに合ってる…ふふ」


 上機嫌な礼央はふもとに着くともう一度大輝の広い背中を叩き、

「優しくしてあげてね」

と告げて駅の方へ横断歩道を渡って行った。

「あ、僕、クマネズミじゃなくて今泉いまいずみだからー!またね、礼央くーん!」

 駅舎の影に入る前に礼央は「分かってるよ」と大きく手を振って、投げキッスまでくれてから消えて行く。


「…イケメンだったな…背も高くて…はぁー…すごい」

己のルックスを誇っている空気はひしひしと感じたしこちらをけなすような小馬鹿にした感じも見て取れた。

 けれど真梨亜の弟だと思えば許せる範囲なので大輝はこの遭遇に関しては最終的に嫌な思いは抱かなかった。

 むしろ交際を始めてひと月以上経つのに面通しをしていなかったことを「申し訳なかったなぁ」と真面目に悔いるのだった。



つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...