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13章
57きゅん
しおりを挟む「……あのさ、クマさんが変な奴だったら、注意してやろうと思って今日来たんだ」
礼央は大輝の素朴で気取らない雰囲気に尽きかけていた戦意を完全に消失、金の頭をポリポリ掻いて悔し紛れに鞄をぶんと大きく振り回した。
「おっと…注意?」
「うん。姉さんって美人でしょ?styleも良いし、連れて歩いてaccessoryにするような嫌な奴だったら別れさせようと思ったんだ」
「…そうだとしても口頭注意で聞くかなぁ」
「そこはどうにでもなるよ、papaの写真見せて脅してもいいさ…まぁクマさんはもう一度会ってるからこの方法は効かないだろうけどね…うちのpapa、強烈じゃなかった?」
「まぁね」
確かに知らない人が見たら父・ティツィアーノは堅気ではないような体つきと厳つい顔をしている。
話せば笑顔とカタコトの日本語が愛らしくもあるが写真ではそこまで分かるまい。
しかしハンバーグといい礼央といいティツィアーノの話題まで出てくれば、大輝の口の中にはあの夜のディナーの味が広がって、反射的にごくんと喉が鳴る。
そんな心情は知らない礼央は大きな喉仏が動くのを見て、つい興味本位で
「…クマさん、姉さんとどこまで行った?」
とまさかの猥談をけしかけた。
「え、どこまでって」
「地名とか答えるボケは要らないよ、sexはしてないでしょ?姉さんの雰囲気でそれは分かってる」
「…僕が答えて良いのかな」
「教えてよ」
上背のある礼央は逃すまいと大輝のゴツい肩に手を回す。
兄弟のこんな話を聞きたいもんかな、言いたくはないな…しかし肩に籠る圧力とすり寄ってくる頬に堪え切れず、大輝は真っ赤な顔で
「…き、キスはした…よ、」
と早めに白旗を揚げた。
「ふーん…そっか…あのさ、大切にしてあげてよ、僕の大切な姉さんだから」
「うん、それはもちろん…僕みたいのを好きになってくれたんだから…大切にするよ」
「自信無いんだ?」
「無いよ、見た目もそうだし…僕から告白はした体になってるけど…釣り合ってるとは思えない」
「そりゃそうだよ」
礼央は大輝の少し丸くなった背中をバンバンと叩き、意地悪気に眉を吊り上げる。
うちの姉に似合う外見なんてモデルかハリウッド俳優でも連れて来なきゃ、礼央は特別シスコンという訳でもないのだがこと自分の家族のビジュアルには過大な評価を与えていた。
そして礼央の美的感覚においては大輝はイケメンではない。
不細工とも言わないし嫌いではないが本心から冴えない・流行りじゃない顔だと思っているのだ。
「…だから断ってたんだ、真梨亜さんが好意を伝えてくれても…美人局かと思った…あ、分かるかな、女の人を使った強請りみたいなことだよ」
「うん…で?姉さんは悪い子じゃなかったでしょ?」
「うん。だから報いたいんだ。ちょっとでも相応しい男になりたい」
「クマさんって…眩しいね」
「そう?青臭かったかな」
「いいよ…姉さんに合ってる…ふふ」
上機嫌な礼央は麓に着くともう一度大輝の広い背中を叩き、
「優しくしてあげてね」
と告げて駅の方へ横断歩道を渡って行った。
「あ、僕、クマネズミじゃなくて今泉だからー!またね、礼央くーん!」
駅舎の影に入る前に礼央は「分かってるよ」と大きく手を振って、投げキッスまでくれてから消えて行く。
「…イケメンだったな…背も高くて…はぁー…すごい」
己のルックスを誇っている空気はひしひしと感じたしこちらを貶すような小馬鹿にした感じも見て取れた。
けれど真梨亜の弟だと思えば許せる範囲なので大輝はこの遭遇に関しては最終的に嫌な思いは抱かなかった。
むしろ交際を始めてひと月以上経つのに面通しをしていなかったことを「申し訳なかったなぁ」と真面目に悔いるのだった。
つづく
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