真梨亜さんは男の趣味が残念だ

茜琉ぴーたん

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13章

56きゅん

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 15時過ぎ…オープンキャンパス1日目も終盤に差し掛かり大輝は早く出ていた分だけ早く帰された。

 明日の2日目も机などはそのまま使うし、次の出番はその片付けだが折角なので朝から出ようとも思っている。


「ふー、お疲れ様でーす」

さて帰って走り込みでもしようかな、そこそこの達成感を持って正門を出ようとすると、塀の向こうに金色の頭がぴょこりと飛び出ている。


「……」

 あれは見覚えのある色だが高さからして真梨亜ではない。

 嫌というか気まずい予感がしつつも恐る恐るそちらを視界に入れないよう門を通過してみたところ、案の定聞き覚えのある声が飛んできた。

「あ、クマネズミさーん、待って!」

「………あ、礼央くん…」

ふもとまで一緒に帰りましょうよ」

「え、あぁ、うん…」

大輝は、来年の出願者かもしれない高校生の頼みを無碍むげにはできなかった。


「ここ、長い坂ですね。毎日大変でしょう?」

「慣れたらなんてことないよ、免許取って許可証を貰えば車通学だって出来るしね」

「へぇ~…クマさんは、歩きですか?」

礼央は早速ニックネームを付けて大輝をおちょくる。

 彼は先程大輝が名乗ってもいないのに「礼央くん」と口走ったのをしっかり聞いていたのだ。

 いつボロを出すかな、性悪な礼央は善良な大輝を揺さぶりにかけてそれ自体を楽しみかけていた。

「下の駐輪場に自転車を置いてるよ…あの、うちの大学、どうだった?参考になったかな?」

「はい、校舎も設備もきれいだし、学食も美味しかったし」

「あ、あれ食べた?中央食堂の特別メニュー」

「あー、頂きました。美味しかったですよ」

「そうなんだ、いや、出来合いのハンバーグってこう、混ぜ物が多かったりするじゃない、後から牛100パーって聞いてさ、僕も頼めば良かったなって」

 「君のお父さんが作ったハンバーグが暫定1位なんだ」と言えば気を良くしてくれるかな、それともお世辞なんて卑怯な奴だと疎まれるか。

 困惑を愛想笑いで隠していると礼央は大輝を「ふっ」と鼻で笑う。

「ふふ、クマさんっていい人そうですね」

「え?そう?」

「はい、クマさんみたいな人だったら、彼女も幸せなんだろうなって」

「唐突に何を…いや…」

いかにもモテなさそうな自分に『彼女』が居る前提の話なんてその存在を知るからできた質問だろう。

 ニタニタと含みのある笑みと目配せに大輝は口ごもった。

 これは確信を得て詰められているのだ。

 そして「自白せよ」と銃口を突きつけられている。

 黙ってなぶり殺されるか可能性は低いがかわして坂の下まで耐え切るか、それとも「僕の彼女は君のお姉さんです」と吐くか。

「クマさん、もう一度聞きますけど、カメジョ甕倉女子大の金髪美人を連れた男、知りません?それ、僕の姉の彼氏なんですけど」

真梨亜の面影が深い美麗な顔に改めて言われれば、大輝はこくんとうなずかざるを得なかった。


「……参ったな……あの、たぶん僕、だよ」

「ふは、やっぱりなぁ、papaパパが言ってたんだ、姉さんの彼氏は原始人みたいな男だって」

 礼央の態度から思ったより好意的に捉えられているようで安心するも、よくよく聞かずとも外見をけなされていて大輝は気分を害する。

 しかし『原始人』は果たして悪口だろうかと考えればそれほどでもないのかも、あらゆる形容を省略した便利な記号だとすれば合理的で「なるほど」と思ってしまった。

「…縄文よりさかのぼってるな…そんなに僕は昔っぽいかな」

「姉さんは昭和の銀幕starスターみたいだって言ってたよ、言い得てるなぁ、うん…ぷぷっ…古臭い顔だなぁ」

「失礼だなー…事実だけどさー…」

「ごめんね。でも僕もpapaも日本の時代劇とか好きだから、嫌いな顔じゃないよ。papaはむしろ憧れてるんじゃないのかな、日本を好きになったキッカケがさむらい映画だったからさ」

「そうなんだ」

それはそうとしても整った顔立ちの君たちから言われたらどうしても中傷ちゅうしょうに聞こえちゃうんだけどね、ことごとく美的センスとは個人差が大きいなと大輝は唇をひねる。
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