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13章
55きゅん
しおりを挟む「戻りましたー」
「あ、先輩、ちょうど良いところに」
「ん?」
食べ終わった大輝が学科ブースの控え室へ入ると、後輩がパーテーションから覗いて手招きした。
「表に人を探してる男の子がいるんですけど、手掛かり知りませんか?」
「人…?」
大輝が味わったのは何とも言えぬ既視感、大学で人探し…それは春休みに真梨亜がまさにここでしていたことだ。
そしてそれだけではない、展示物の前に立っているその男子高校生の頭は軽やかな金髪で…出て行った大輝も見上げる長身のその顔の中の目は碧眼だったからなおさら身に覚えがある。
「こんにちは、あの、この辺で、カメジョ…甕倉女子大の金髪美女を彼女にしてる男、知りません?」
「金髪」
「そう、外国人の。パッと見で目立つ美人、それを連れてる男、見たことありません?」
「さ、ぁ……知らない、かな…」
これはかつて扉越しに会話した真梨亜の弟・礼央だ。
大輝は瞬間ピンと来て脂汗がびやと額から吹き出す。
そうか高3だから来ていても不思議は無いか、しかし彼の目的は姉の彼氏を探すことが最優先のように思えた。
キョロキョロと大きな青い瞳を動かして周囲を探る、各所で資料やパンフレットが配られているはずだが彼が手にしているのは正門で全員貰える構内マップだけ。
ある程度のアタリを付けて真っ直ぐここへ来ているのかもしれない。
だとすれば自分はあの時彼に名を名乗っている。
大輝は願わくば彼がセックスに思考を奪われ、姉のボーイフレンドの名前など記憶しなかったことを期待する。
だってこんな美形男子と並んでいるだけで眩しくてオーラで消し飛ばされそうなのに、その美しい姉と仲良くしているということを知られたら、さらに自分の容姿を馬鹿にされたら立っていられない。
大輝は一刻も早く逃げ去りたいと出口を横目で窺った。
「ふーん…ちなみに、お兄さん、お名前は?」
「え、あの、あー、…マ…ズミ、」
「え?すみません、もう一度…クマネズミ?」
「そ、そう、そんな感じ」
「熊鼠…?珍しい苗字ですね」
「珍しいよね、はは…」
周囲の後輩は不審そうな顔で大輝と礼央のやり取りを遠巻きに見つめ、まぁ上手く処理しているのだろうと他の作業へと入る。
「(弱ったな…嘘ついちゃったからもう戻れないぞ…)」
熊鼠こと今泉大輝は一応役割だからと礼央へパソコン作業を少し教え、器用にこなした礼央を出口まで見送ってひらひら手を振った。
「(…バレなかった…良かった…とも限らないか…どうしよ)」
真梨亜と交際を続けていればいずれ礼央と顔を合わせる日が来るだろう。
その時に「あの時はよくも騙したな」となればラッセル家全体からの評価も下がるに違いない。
とはいえやはり住む世界が違うと言うか人種が違うのだ。
礼央は自分より背が高いのに顔が小さくて頭身が漫画みたいだった。
大輝は乙女のようにもじもじと自身のあっさりした目元を手で覆った。
再会した時の反応は怖いがせめて真梨亜か両親がそばに居ればそこまでの悪態もつかれまい。
そして身分を隠した理由は『みっともなくて言い出せなかった』で決まり、情けないが本当にそうなのだ。
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