真梨亜さんは男の趣味が残念だ

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
34 / 92
7章

33きゅん

しおりを挟む

「きゃ」

「ふふっ」

「笑わないで…」

「ごめん、…真梨亜さんってさ、性別の捉え方が古風なんだね。『男らしい』とか…僕も言うけどさ、真梨亜さんはもっと革新的なのかと思ってた」

「……genderジェンダーとかそういうこと?もちろん男女の格差は埋めるべきよ、でもあたしの好みは変えらんない…昔ながらの男臭い男性が好きだし、あたしはあたしの美的感覚においてお化粧もfashionファッションも理想があるし…あれって『らしくしなさい』って人に強いるのをやめましょうね、っていうのが本質なんじゃない?てか話を逸らさないで」

「真梨亜さんは強いてるじゃない」

 真梨亜はぐぬぬと口をつぐむも、

「…大輝くんも昔ながらの男らしさで生きてると思ってた…違うならごめんなさい」

とまた哀しげな声をあげて頭を下げた。

 理想を押し付けてやり辛くさせているなら好かれなくて当然か、自分の好みを主張するばかりで彼の本性が分かっていなかった。

 それを分かるだけの時間が欲しいという大輝の意見がやっと真梨亜の腹へストンと落ちる。


「……」

 あまりの彼女の落胆ぶりに大輝も大輝で内心慌てており、決定的に嫌われる覚悟と勇気なんて無いのでこの場を収めようと

「まぁ古来からの男らしさを追い求めてるよ」

と呟いて運転席をチラとうかがった。

「…大輝くんって案外意地悪ね」

「そうかな…ていうかそんなに性格は良くないよ、幻滅する?」

「しない、真面目な人が好きだけど…冗談も通じる楽しさも欲しいもん…」

「……真梨亜さん、車ってさ、話し易いね」

「そう?」

「うん…同じ方向見てるから目線とか気にならなくて…緊張しない」

 陽はどっぷり落ちてコンビニ店内の照明が余計に明るく感じる。

 けれど車内は暗くて彫りの深い真梨亜の各パーツの輪郭だけが浮かび上がって視線などは分かりにくい。

 目が泳いだって赤面したってもう分かるまい、ムーディーと言うよりはもっと落ち着いたこの空間に大輝は慣れて心が次第に穏やかになっていく。

「そっか、良かった」

「真梨亜さんは…受けたい企業は絞ってる?」

「また逸らすのね。……んー…今日見たとこは受けてみたいかな…ムラタも」

「あー、僕も…」

「接客とか好き?」

「嫌いじゃないけど、何だろ…信用を得るみたいな仕事をしたいな」

「銀行とか?」

「人様のお金を扱うのは恐い」

「ふぅん…」

 「臆病なのね」、自称する通りの性格が垣間見えてなんだか可笑しい。

 短所だって『痘痕あばた笑窪えくぼ』…その気弱さも可愛らしいと思えてしまうのだから好意とは恐るべしである。

「真梨亜さんはさ、国際的な仕事とか関心無いの?」

「もちろんあるよ、そういう学部だし一応bilingualバイリンガルだし…家でも日本語だけどね。でも通訳とかになるとその分野ごとの専門的なこととか瞬発力とか要るし…そこまで有能じゃない…やる気のある若者じゃないの。在日英語話者とか旅行客とか、そういう人達との橋渡しくらいなら…重宝されるんじゃないかなー、なんて…ほら、横浜とか海外の人多いじゃない」

「そうだね、働きに来てる人も多い」

「あたしが居ることでトラブルとか減ったりスムーズに事が運んだりとか…手助けが出来たら…良いのかな」

 彼女の両親は日本が好きで、家庭で積極的に日本語を使ったり名付けを漢字でしたりというところからもそれは窺える。

 日本で暮らしていくための最低限のスキルを身に付けさせた、それ以上のことは各個人で習得しなさいということらしい。

「…モデルとかは?」

「は?何、いきなり」

「ごめん、真梨亜さんキレイだから…芸能人とか」

scoutスカウトはされたことあるよ、でもそれこそ厳しいじゃない。あたし、結構打算的なの。大輪の花の中で埋もれるくらいなら荒れ地にひとり咲いてたいの」

「自分を花に例えられるのが自信を感じさせるよ」

「実際…自分のこと美人だとは思ってる」

いさぎいいね…見習いたいよ」

 大輝は時計を確認してネクタイを締め直し、

「だから大輝くんは男前だって言ってるじゃん!」

と吠える真梨亜へ

「その感覚は残念だよ」

とニッコリ暗闇に笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...