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7章
33きゅん
しおりを挟む「きゃ」
「ふふっ」
「笑わないで…」
「ごめん、…真梨亜さんってさ、性別の捉え方が古風なんだね。『男らしい』とか…僕も言うけどさ、真梨亜さんはもっと革新的なのかと思ってた」
「……genderとかそういうこと?もちろん男女の格差は埋めるべきよ、でもあたしの好みは変えらんない…昔ながらの男臭い男性が好きだし、あたしはあたしの美的感覚においてお化粧もfashionも理想があるし…あれって『らしくしなさい』って人に強いるのをやめましょうね、っていうのが本質なんじゃない?てか話を逸らさないで」
「真梨亜さんは強いてるじゃない」
真梨亜はぐぬぬと口を噤むも、
「…大輝くんも昔ながらの男らしさで生きてると思ってた…違うならごめんなさい」
とまた哀しげな声をあげて頭を下げた。
理想を押し付けてやり辛くさせているなら好かれなくて当然か、自分の好みを主張するばかりで彼の本性が分かっていなかった。
それを分かるだけの時間が欲しいという大輝の意見がやっと真梨亜の腹へストンと落ちる。
「……」
あまりの彼女の落胆ぶりに大輝も大輝で内心慌てており、決定的に嫌われる覚悟と勇気なんて無いのでこの場を収めようと
「まぁ古来からの男らしさを追い求めてるよ」
と呟いて運転席をチラと覗った。
「…大輝くんって案外意地悪ね」
「そうかな…ていうかそんなに性格は良くないよ、幻滅する?」
「しない、真面目な人が好きだけど…冗談も通じる楽しさも欲しいもん…」
「……真梨亜さん、車ってさ、話し易いね」
「そう?」
「うん…同じ方向見てるから目線とか気にならなくて…緊張しない」
陽はどっぷり落ちてコンビニ店内の照明が余計に明るく感じる。
けれど車内は暗くて彫りの深い真梨亜の各パーツの輪郭だけが浮かび上がって視線などは分かりにくい。
目が泳いだって赤面したってもう分かるまい、ムーディーと言うよりはもっと落ち着いたこの空間に大輝は慣れて心が次第に穏やかになっていく。
「そっか、良かった」
「真梨亜さんは…受けたい企業は絞ってる?」
「また逸らすのね。……んー…今日見たとこは受けてみたいかな…ムラタも」
「あー、僕も…」
「接客とか好き?」
「嫌いじゃないけど、何だろ…信用を得るみたいな仕事をしたいな」
「銀行とか?」
「人様のお金を扱うのは恐い」
「ふぅん…」
「臆病なのね」、自称する通りの性格が垣間見えてなんだか可笑しい。
短所だって『痘痕も笑窪』…その気弱さも可愛らしいと思えてしまうのだから好意とは恐るべしである。
「真梨亜さんはさ、国際的な仕事とか関心無いの?」
「もちろんあるよ、そういう学部だし一応bilingualだし…家でも日本語だけどね。でも通訳とかになるとその分野ごとの専門的なこととか瞬発力とか要るし…そこまで有能じゃない…やる気のある若者じゃないの。在日英語話者とか旅行客とか、そういう人達との橋渡しくらいなら…重宝されるんじゃないかなー、なんて…ほら、横浜とか海外の人多いじゃない」
「そうだね、働きに来てる人も多い」
「あたしが居ることでトラブルとか減ったりスムーズに事が運んだりとか…手助けが出来たら…良いのかな」
彼女の両親は日本が好きで、家庭で積極的に日本語を使ったり名付けを漢字でしたりというところからもそれは窺える。
日本で暮らしていくための最低限のスキルを身に付けさせた、それ以上のことは各個人で習得しなさいということらしい。
「…モデルとかは?」
「は?何、いきなり」
「ごめん、真梨亜さんキレイだから…芸能人とか」
「scoutはされたことあるよ、でもそれこそ厳しいじゃない。あたし、結構打算的なの。大輪の花の中で埋もれるくらいなら荒れ地にひとり咲いてたいの」
「自分を花に例えられるのが自信を感じさせるよ」
「実際…自分のこと美人だとは思ってる」
「潔いね…見習いたいよ」
大輝は時計を確認してネクタイを締め直し、
「だから大輝くんは男前だって言ってるじゃん!」
と吠える真梨亜へ
「その感覚は残念だよ」
とニッコリ暗闇に笑った。
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